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 二人の寝床(床編)


    ところで、ボクは案外、話を聞くのが好きである。

    暗部にはそれなりに事情のある者もいれば、なにもないヤツもいたりして、その落差
    が楽しい。命のフォローをし合う仲ともなれば多少はくだけた話も飛び出すものだ。
    そういう同僚と交わすくだらない、身にならないような会話を拾うのが案外楽しいこと
    に気付いたのは最近だ。

    かといって、ボクには語るべき思い出があまりない。
    というか、むしろ語ったらいけないことばかりでどうしようもないから、自分から言うこと
    はほとんどない。相手もボクの拉致生活とか監禁生活とか、血圧検査とか総タンパク
    量とかを、延々聞かされても困るだけだろう。(でもちょっと想像したら面白かったので
    いずれ誰か無害そうな人に試してみようと思う)

    だけど、人の話を聞くのは楽しい。

    そこには、その人の生活だったり、思考パターンやルーツが散りばめられている。それ
    をそのまま受け取っても、想像しても楽しい。
    そういうわけで、ボクは人の思い出を聞くのが好きだ。


    「ね、聞いてる?テンゾウ」

    そういって首を傾げてくる、この人の思い出話は特に好きだ。
    仲間を大事に、チームワーク至上主義の上司である。
    チームワークという割に、本人の守ってあげたい度(と内々ではいわれている)が強す
    ぎて下のフォローに入りすぎる傾向があるので、ときどき自身がチームワークを乱すこ
    ともあるという奇妙な業の人だ。

    「聞いてますよ」
    「寝てるのかと思った〜。反応ないんだもん」
    「だってボク飲んでたでしょ今。流石に飲みながら表情変えるのは難しいですよ」
    「でも口つけたままだったじゃない〜」

    語尾が延びてくると、少し酔いが回った証拠だ。
    普段は何故か語尾の手前が延びる。なんでそこを伸ばすんですかと真顔で聞いた
    ことがあったが(今思うと面と向かって質問することでもなかったような気がする)、
    真顔でかわいくしようと思って、と返された。
    そのまま言ってしまうときつく聞こえるかな、って思うとつい伸ばすらしい。が、やん
    わりしたイメージを与えるつもりで、ふざけているのかと怒られることもあるそうなの
    で、一勝一敗って感じ、と本人は言っている。
    一勝一敗ってそういう時使うんだろうか。
    なんとなく当時はそのままそうですか、で終わってしまった。

    今日は二人して、のんびり先輩の家で飲み会。
    流石に現役暗部ともなると、里とはいえ安易に徒党を組んで飲み歩くことなどでき
    はしない──わけではない。
    暗部とはいえ非番の連中は案外、里のそこかしこでごろごろしている。
    ここ数ヶ月連続で飛び回っていた先輩の、荒れ果てた部屋の様子に呆れたボクが
    誠心誠意荷物整理を手伝って、そのお礼で自宅飲みだ。
    こういうときじゃないと飲めないし、と美酒を惜しげもなく振舞ってくれるところはあり
    がたいのだが、片付けはなんとなくボクだな、と今から自負している。

    自負ってこういうとこで使うもんだっけ?
    うん、ボクも結構酔ってきてる。断言できる。

    「でも聞いてましたよ、寝てないです。先輩の昔話には大物がさらっと登場するなあ
     と思って考え事してただけですよ」
    「大物って・・・あー。そうね」
    「アレもそうですけど。自来也様でしょ、綱手様でしょ、四代目に三代目にアスマさん
     ですか。あの方も猿飛家の方じゃないですか。ウチの里のトップエリートたちですよ」
    「子供の頃よくしてもらってたおじさんおばさん、先生、現火影、腐れ縁ってだけだけど。
     逆に言うと、オレ他に友達いない・・・んだ・・・な・・・」
    「あはははは」
    「棒読みで笑うな、なんかむかつくでショ!」
    「ボクも似たようなもんですよ。友達あんまいませんから」
    「暗部にいっぱいいるじゃない」
    「少なくとも、外でいえないじゃないですか。どっちかっていうと、同士って感じだし」
    「・・・そうだね。そうね〜」

    いわれてみればね、と首をまたかしげながらもごもごしている。

    「でもいま、里にいるのって三代目だけなんだよなあ」
    「・・・・・・そうですね」
    「なんかオレの知り合い外に出るやつ多すぎない?」
    「そうですね」

    暗部でなんとなく先輩が気に入っていた特殊な子供もいなくなった。
    その血族のほとんどを殺して、思いがけない気軽さで、さっさと里を抜けた。
    凶行の予兆すらほとんど感じさせずにいなくなった。
    今ウチが忙しいのは、そのせいでもある。

    「オレだけ留守番〜・・・」
    「里抜けしたいみたいですよ。聞いてるのがボクだからいいものの」
    「でも結局さー、誤解したいヤツはなんでも曲解するからどうでもいいよ〜」
    「スキをみせないでくださいね、っていってるんですよ?」
    「ん」
    「この時期につけ入るスキなんて見せたら間抜けです」
    「ん、うん。そなんだよねぇ。わかってる〜わかってるけどね・・・・・・なんかさみしく
     なったんだもん・・・」
    「・・・ですね」
    もん、とか言うなと注意したかったのにあんまりはまってたんで出来なかった。
    じわじわと、立てた膝のあたりになついてきていた体を引き上げて、軽く抱きし
    める。頬のあたりが妙に酒臭い。
    「やっぱ飲みすぎですよ」
    「だね〜。あと語りすぎた〜」

    酔いでほてった体はいつもより熱くて、弛緩していて、だらりと重い。
    重いといってもたかが先輩程度の体重、なんとも思わないのだけど。今はなん
    となく、その暖かさと、重さが逆に嬉しい。

    「テンゾウがいてくれてよかった〜」
    「はいはい」
    「さみしいっていえる相手がいるってすごいよね〜・・・」
    「ですねえ。愚痴の相手くらいしか出来ませんけど」
    「ありがたいよほんと」
    首に回された腕が更に力を増す。少し痛いくらいの拘束だ。

    「・・・テンゾウはさ、いなくなんないよね?」
    潜められた声がさみしい。
    「ならないんですよ。これが」
    ぼん、ぼんと背中を叩く。
    普段はこんなに弱い人じゃない。いや、弱いけどそれを表面に出したがる人で
    はない。よっぽど寂しくなったのだろう。頬に擦り寄る力も増す。

    「あー」
    「あー?」
    「なんかもうやっちゃいたい」
    「・・・・・・やっちゃいたいって」
    「言葉どおり〜。やる気はあるからやれそうなんだけど疲れてもいるから持続
     できない・・・・・・」
    「転がってくれてもいいですよ?」
    「やだ、むなしいじゃない」
    「むなしいの、半分寝てる相手に頑張るボクだと思うんですけど」
    「ちがう、朝。痛いしだるいけど下だけスッキリしてんの、あれすごい切なくなる
     んだから。へこむよ、結構」

    我慢できなくなって、何度か無理やり決行したときのことをいってるんだろうか。
    だとしたら申し訳ない話だ。翌朝は仕事、がほとんどだったので、当然先輩が
    起きる頃にはもうボクはいないわけだし。
    「どうします?」
    「いちいち聞かないでよ・・・」
    「でも、動向をうかがえるんなら一番かな、と」
    「・・・・・・抱き枕でいい。今日はね」
    了解の変わりに、ベッドの上のブランケットを引きおろした。ついでについてきた
    枕も床に押し当てて、酔っ払いを抱えたまま横になる。
    「・・・床で寝んの?」
    「外に比べたら柔らかいですよ」

    暖かくてやわらかい寝床もいいけれど、固い感触に転がるのも案外嫌いじゃない。
    感傷的なことをいうと、二人だけ取り残された感じになる。お互いが暖かくて、やわ
    らかいからよりくっつきたくなるし。
    妙に可愛いことを考えてるもんだ。われながらちょっと引く。

    「みんな、なんで行っちゃうんだろうね・・・」
    「寝ましょうよ、疲れてるはずです」
    「・・・うん」
    寝息みたいな返事が帰ってくる。

    閉じた瞳を見つめていると。目蓋が落ち窪んでいるようで疲れを更に感じさせた。
    疲れてるんだ。
    休みたいんだ。
    さみしいんだ。
    その全てを感じさせる表情だ。

    「おやすみなさい」
    「・・・かたくしないでね・・・」
    「・・・・・・」
    お休み前の一言がソレかと思わんでもなかったが、絶対の自信はなかったので
    返事はしないままにした。


    さみしがりはすぐに寝入ってしまった。
    弱音、を見せてくれるようになったことが嬉しい。
    嬉しいけど、さみしさに引きずられそうにもなる。
    でも、やはり腕の中に納まるこの人が嬉しくて。

    この人の思い出の人たち。

    いっそ帰らないままでもいいのに、と頭のどこかでぼんやりと思った。






情けない飲み会。
気弱すぎと独占欲強すぎ。
なんだかこの二人、シリアスなのに急にシモとか絡めて
きそうな気がしてつい脱線してしまいます。
よくない傾向だと思います・・・。私のパンツいつ脱ぐの
計画に支障が・・・!

やる気だけはあるんです。いつもから回ってるだけでorz