index

about

text

memo

link

info

TOP










 室内清掃の悦


    人の部屋を掃除するのが好きだ。
    対象は限られるけど、大好きだ。

    「おまえさ、けっこー面倒見いいよね」
    「なんでそんないやそうにいいますかね」
    「いや、嫌がってないよ。そこまでは」
    「目、そむけながらいわれてもなあ…って、あ、これももう捨てますね。賞味期限
     過ぎてるし」
    「あ、それまだ食べれるのに」
    「食べないでくださいよ。何のための賞味期限ですか」
    「消費期限はすぎてないでしょー!」
    「だめです。未開封の乾麺ならともかく、こういう混ぜ物の多いインスタント食品
     はよくないですよ?」
    「あんま料理できないくせに、なんでそんなことばっか知ってるかな」
    「料理できないからインスタント食品に詳しいんです」
    「う」
    それもそうだなとブツブツ不満そうに先輩は机の上を拭いている。

    実際、先輩の部屋なんてモノが少ないから言うほど汚れてはいないのだけど。
    さすがに任務に出ると、空気がよどむ部屋の中には自然と埃がたまる。
    で、間に半日ほど自宅にいられるときは生鮮食品なんて買ってこれないから
    (笑えることに暗部には生野菜を食べようというスローガンがある。激務なので
    里にいるときくらいは栄養に気を使えという意図らしい)、簡単な惣菜になる。
    そうするとパック皿とか不燃ごみがかさんで、ゴミだしの日の朝にわざわざ出
    しておくことなんでできないから、必然と微妙に小汚くなっていくのだ。

    先輩は二月ほど前から連続して短期の外回りに励んでいる。そのせいか部屋
    の中では微妙な状態の地層をそこいらにみてとることができる。
    帰ってきた直後に洗濯しようとして脱いだ(と思われる)服の上に、また新たに
    脱ぎ散らかした服があって・・・これはおそらく、脱いだ直後に指令の鳥がきた
    とかして、速攻呼ばれて飛んで出た、が続いたんだろうな。
    多分。

    自分にも経験があることなので、なんとなく推測しつつ・・・というより、最近仕事が
    ひどく忙しいということは、しみじみと感じていた事実である。
    雷の国の方できなくさい動きがあるようで、諜報及び局地的な鎮圧活動も兼ねて、
    写輪眼使いは引っ張りだこだ。カカシ一人がいない程度で暗部の活動に支障を
    きたすわけはない、といいたいのだが。最近は常駐メンバーをとりまとめていた彼
    が不在ともなると、更にその下でやりくりをすることになるので、結果として常駐メ
    ンバーは俄かに忙しくなっている。。テンゾウも近場を往復する毎日だ。
    前線の者もおそらく飛び回っては報告に、と大変なことだろう。
    暗部、もうちょっと増やして欲しい。

    一旦区切りがついて、ちょうど自宅に戻る途中、闇夜を過ぎる影に気付いた。
    久しぶりだなと思い、ふらりと立ち寄った先輩の部屋の前にはヘロヘロの薄汚い
    男がよわよわしく手をふっていて。自分も疲れてはいたのが、さすがにその情け
    ない姿をみてしまったからには放っておけなくなってしまったのだ。
    そんなわけで今テンゾウは疲れた身体に鞭打って、他人様の片付けのお手伝い
    をかってでているわけだ。
    けなげなものよと自画自賛。

    「あー。ようやく一日お休みだよ〜」
    風呂で汗を流せてすっきりしたのがよかったのか、カカシはひどく嬉しそうな声を
    出した。それでもその声は少し擦れてて、疲れを感じさせる。
    「おつかれさまです。二ヶ月ぶりですか?」
    「そ。半日休みってのほんとカンベンして欲しい・・・こっちはだいじょぶだった?
     オマエ元気そうだからだいじょぶか」
    「それなりに回せてましたから。簡単でしたよとはいいきれませんが、月一は
     休みありましたしね」
    「忙しいよねえ。こういう愚痴いえるだけ余裕あるけどさ」
    「ていうかむしろ環境改善要望出したいくらいです」
    「あーオレも言おうと思ってたんだ。こういう時は火影様への直訴はだめなんだ
     よねぇ。丸め込まれちゃうんだ、百戦錬磨の爺様だから」
    「泣き落としですか?」
    「それにプラスして戦時中の話出ちゃうよ」
    「あ、それは勝てない」
    「ね。オレもいましたよっていっても長さが違うからさ。そこからが長いんだまた」

    けなげ、といいつつ実際はこうやって話をするのが好きなだけかもしれない。
    少し低めの先輩の声をきいて、あまり深く考えずに返す。気の置けない友人の
    ような、少しむず痒くなる快感がそこにはある。

    「オマエも疲れてるんでしょ。布団相当乾してないけど、平気?泊まってく?」
    「・・・・・・いいんですか?」
    「ナニ考えてるかな、そのタメは」
    「一緒に寝るのかな、と」
    「今日は眠るだけにだけどね。明日なら、まあそれなりにかまわないけど」
    「明日って、どうせまた夜任務なんでしょ」
    「そうそう。まさか、そんながんばりやの先輩に対して無体なことはしないよね
     テンゾウ」
    「やな牽制だなあ」
    「うーん、ぶっちゃけちゃうと出すには出したいんだけど、それ以上する体力は
     ちょっとないかなーと」
    「あー。」
    「休み二日ならそりゃオレも若いし、それなりにお付き合いしたいよ。そりゃね。
     でもきついし眠いし、肌寒いしさ〜」
    「あ、それで湯たんぽがわりに?」
    「そうそう、いいとこきたくれたよテンゾウ。ちょっとうるさいけど、掃除もしてくれ
     るし。いうことないね」
    「小うるさくて悪かったですね。ま、いいですけどね、湯たんぽくらい」
    「不満そう〜。さっきのオレの買い置き捨てたの許してあげるから」
    「いやいや、それについては感謝されてもいいんじゃないかと思ってますよボク。
     アレ放置してたらいきなり中ったりするんですからね」

    率直なのか牽制なのか。
    微妙にわかりづらいやりとりをしながら手だけは動かし続けて不燃物をとりまと
    めた。あとは洗濯機が服をきれいにしてくれるのを待つだけだ。
    牽制といっても、強引にコトをすすめることができなくもなさそうな、ぼんやりした
    ものなのだが後の仕事の事を考えるとさすがに手を引いてしまう。実際、会いた
    いと思ってはいたが、いま身体を繋げないと死んでしまう!といったような強烈な
    衝動はないわけで。というかそういう衝動に駆られたことがない。
    いつもなんとなく、それなりにそういうことになったりしてただけなので。

    まあ、久しぶりに話せただけでもいいんじゃないのと、どこの女の子だソレみたい
    なことを考えたりもする。

    「今度戻ってきたら、直訴に行くから。その時にでもゆっくりってことで」
    「やる予約ってのもなんか変ですね」
    「変かなあ。そかもね。でもオレお楽しみは後にとっとく主義なのよ」
    「じゃあ、それを助けに帰ってきてください」
    「やるために帰るって言葉にするとちょとヘンタイぽいなあ。帰ったらやるぞーって
     思いながら帰ってくるのか」
    「『後のことは考えずに身を任せる』って即物的且つ俗物的な考えの方が普通っ
     ぽく思えますね」
    「ほんとだ。納得いかないなあ。てか、テンゾウホント冷静だね。若さがないよ?
     若さがさぁ!」
    「若さがあったら押し切っちゃうんだから、なくていいじゃないですか」
    「あ、それもそうか。ありがとう、テンゾウが年寄りぽくてよかった」
    「それは文句としてカウントしときます」
    「はあ。ほんと仕事熱心だよねオレたち。褒めてもらいたい」
    「ですね」

    先輩は既に横になって寝る姿勢。いいですけどね。あなたのおうちですし。
    ボクはボクで久しぶりにたくさん話してすっきりしてるし。任務の合間に日常との
    バランスを必死でとっているようでなんだけど、やっぱり会話って大事だなと思う。
    あと掃除も。
    そこに洗濯機のアラームが鳴って、これでとりあえず室内の懸案はほぼ完了。

    「あとはボク乾しておきますから」
    「ありがとね。次帰ってきて余裕できたらゴハンおごるよ」
    「そんなのは別にいいですよ。結構好きでやってますしね」
    「ほんとオマエ面倒見いいね。いい嫁さんになれるんじゃない?」

    まあ、下心込みなのは認めますけど。だれかれ構わずサービスするわけじゃ
    ありません。

    最後に、取りまとめたゴミの隣の、積上げた読んだんだか読んでないんだか
    不明の雑誌類に手をつける。それを紐でくくり始めて。



    「あ、やだテンゾウ、捨てないで」




    そうそう。それが一番聞きたかった。










後輩には若さがない。
で、先輩には色気がない。不思議と、実際はやりまくりですよホント!
とかいいたいのに、不発ぽい人たちばかりを書いてしまっているような
気がしないでもな・・・い・・・

ぼーっと掃除しながら、おうちにあった(なんであったの)金色夜叉を
ちら見してたら、ふと浮かんだSSです。別に宝石にも金に目がくらんだ
わけでもないですが(ていうかくらんだ場合相手は誰だ三代目?むしろ
大蛇丸?)カカシが言葉だけでも縋るところを書いてみたかった(内容は
ともかくとして)のですが・・・結果、妄想豊かな後輩が完成しました。
どこでボタンを掛け違えたのかちょっと真面目に考えてきます。アレー。