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 わーかほりっく.


先輩の部屋には鰹節がある。
削ったヤツじゃなくて、削られる本体の方だ。

これはきっとアレだ。忍びの鉄則というべき規則正しい食生活(とりあえず
ふだんは)のために揃えられたもので──ということはなさそうなのだが、
いったいぜんたいどうしたことか。
カカシや自分のように暗部の者に限らずとも、里の忍びの出入りは激しい。
身体を使う仕事でもあるため、さすがに偏った食生活にならないよう注意は
しているが、たまの休み、しかも滅多にない日にお出汁のストックを作りま
したとか、そういう余暇の過ごし方をする人間など聞いたこともない。
どこかにはいるかもしれないけど。

なので、コレは本来カカシの部屋にはないはずのものだ。
しっかり、がっしりとしたソレは非常に軽く、使いようによっては立派な
凶器といってもさしつかえないくらいに硬かった。
これを突然目の前に出されて、ああ、鰹節ですね。ああやってこうして食べ
ましょうよってすんなり話の運べる十代男子がいるだろうか。
いや、断言してはいけないのだろうけど。どこかにはいるかもしれないが、
とりあえず自分はダメそうだ。
だまってテンゾウに鰹節を差し出してくるカカシを前に、どう反応したら
いいやら。すっかり素になった顔を晒して、テンゾウは鰹節を凝視した。
「怖い顔しなーいの。これはオマエの命を脅かすよーなもんじゃないよ?」
「……そんな心配はしてないんですけど。なんていうんですかね…ちょっと
 呆然としちゃって」

仕事が一息ついた打ち上げも兼ねて、とテンゾウを自宅に誘ったのはカカシ
だった。
いい酒を貰ったのだと微笑むカカシに、いそいそ下心込みでご相伴に預かろ
うとしたのはテンゾウの方だ。
あいも変わらず激務は続いていて、カカシと会うのは久しぶりだった。

最近のお仕事としましては。
一週間程度のプチ遠征任務が三回。間に半日程度のお遣いが二回。そろそろ
休みがないと辛いな思っていた矢先、もう一つだけ、と仕事を持ってきたの
がカカシだった。
正直、火影様には恐れ入る。さすがに温厚なテンゾウもちょっと意見くらい
はしてもいいかな、と思うくらい精神状態スレスレの日に、あえてカカシと
の合同任務と持ってくるとは。さらに本人から『これが終われば二人とも
休み』というカモネギでのご登場だ。なんというタイミングだ。
もいっちょがんばるか、と笑うカカシの姿も、おそらくどこからか転戦して
きたのだろう、少し薄汚れている。
そんな姿をみてしまうと、ささくれ立った神経がほぐれていって、ちょっと
緊張感がなくなりそうであせりはしたが、そこは耐えた。久々の任務で、
カカシの足を引っ張るのはごめんだからだ。

それから三日程度の、ちょっとだけ物騒な任務が終わったのがたった今。
里への到着は深夜、祝日と重なったせいで夜中までやってる数少ない飯屋で
すらお休みだ。そこで、カカシからのお誘いとなった。
食事というより一杯いきたかったのだと思う。二人とも。
久々の逢瀬を堪能できるとあって、テンゾウもちょっと盛り上がっていた
気持ちがあるのは否めない。だが今回はその下心が見透かされたか、テンゾウ
をまず歓待したのは酒ではなく、できたてほやほやの恋人からの情熱的な誘い
でもなく、香しさが売りのカチカチの鰹節だった。

仕事でちょっぴりささくれていた神経を、恋人とはいえ、強引に他人で癒そう
と計画した報いがコレだろうか。なかなかに生臭い呪いだ。
玄関から上がったそのままの姿勢で台所の卓上に「はいどうぞ」とばかりに
置かれた本節をみつめる。
カカシがあまりにも自然にそれを差し出したので、どう受け止めればいいのか
頭がついていかないのだ。疲れて過ぎて。
「…先輩、これを僕にどうしろとおっしゃるんで?」
「つまみ」
「つまめ?」
テンゾウが指ではさむそぶりを見せると、カカシは眉をしかめた。ちょっと
迷惑そうな顔なのに、どこか可愛いくみえるところがすごい。美形って特だ。
こんなときでも、カカシはやはり美しかった。その手元に持ったブツが香ば
しい芳香を醸し出している鰹節だとしてもだ。
…こういうのなんていうんだろう。デカダンっていうのかな。美しいものと
対極というか。いやべつに鰹節が美しくないわけじゃないんだけど…。退廃的、
と言い切るのは食べ物に対して失礼だろうか。おぞましいわけでもないんだけ
ど…なんかこう外観が。とりあえずキラキラとはしていなかったので。
困惑ついでに韜晦しだしたテンゾウの意識を引っ張り戻したのは、不満そうな
カカシの声だった。
「そーいうボケじゃなくて。つまみ、コレしかないの。あと昆布?出汁取る
 ためのやつ」
「……料理できないのに、なんでそういう難しそうなモノだけ持ってるんで
 すか…」
「前、一緒の任務の時あったでしょ?卸問屋にいったやつ。そこでの貰い物。
 すぐには腐らないからってんで、ずっとタッチしてなかったんだよねぇ」
「しましょうよ」
「だから、してよ」
「なんでボクが」
「オレがやるより、似合うと思うから?」
「昆布が?」
「…それはどっちかっていうとオレっぽくない?」
「いや、意味わからないし。ていうか、そういう問題ですか?」
まさか着るわけでもないし、といわれるままに鰹節を手に取る。
「先輩、ボクたしかに同じ問屋に行きましたよ」
「だよね。潜入したよね」
「でも、ボクの担当は昆布の方です。しかも下っ端の荷物運びばかりでしたか
 ら、昆布には触らせてももらえませんでした。さらにいうなら、鰹節は別棟
 でやってたうえにあなたの方がそっち担当だったでしょ!」
「オレ、途中からほぼ接客担当だったから」
どうにも手をつけるつもりがないんだとわかると、ため息をつきながらハラを
くくった。考えてみれば確かに命の危険もないのにハラをくくるというのも
おかしな話だ。
「…先輩、これなんで削るんですか?」
記憶の中から、なんとなく作業の現場を思い出す。専門の削り用のカンナみた
いなのでやってましたよね?と問いかけると、うちにそんなものはないよと
笑顔で返された。

じゃあ、どうしろと?




本編へ続く。
冒頭だけお試しです。
いまみてみたら異常に鰹節にこだわってます。なんなんだ。
多分たべたかったのかもしれません。すみません。
以降、続くお話での食べ方、ものっそい美味しかったことが
あったんですが、それが忘れられずに別の機会にやったら
しぬほど生臭くて???ってなりました。

まぼろしのかつおぶしだったのかもしれません。
どうでもいいにっきだ。>説明だというのに>ここ