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 庶民派ごちそうぱらだいす


「オレはまず、ひらめと赤身ね。おまえは?」
「イカとタマゴお願いします」

職人が、あいよ、と威勢のいい声で注文を受ける。その技を揮う様を間近で
感じられるのがカウンター席のいいところだ、とカカシは思っている。
木の葉の里は内地にあるため、一昔前はまだ新鮮な魚を食べる機会はそう
はなかった。戦争が終わり、その後里に訪れた未曾有の天災(と、あえて
表現する)の傷跡も少しづつ癒える頃。一言でいえば金稼ぎの為に残された
里の忍びたちは暗部も含め奔走していた。
その最中、各人が持ち帰る土産話の中で──行き先を隠さなくていい場合に
限るが──漏らしてもいい部分が元となり、次第に変化を遂げていった。

つまり、どこどこのアレがうまかいだの、コレは珍味だ、また食べたいだのと
いう、極めて即物的な感想がきっかけで、最終的には物品の流通量だけでなく、
提供側の質までも向上させたのである。おかげで今は里の中にあっても、今朝
水揚げされたばかりの魚を生食でその夜に楽しむことができる。
こういうご褒美があると、日々働いてきてよかったと実感するのである。

はいよ、と目の前の皿にとん、と置かれたつやつやのひらめを手にとって、口に
運ぶと、コリコリとした食感がたまらない。ほのかな甘みも、アクセントのワサビも
香りがまた──・・・といった類の感動は置いといて。
テンゾウのオーダーはイカとタマゴである。
・・・いや、イカもタマゴも悪くはない。好きですよ美味しいし。
でもなんていうかその。

「…テンゾウさ、もっと高いの食べていいんだよ?遠慮とかしないで」
「そんな、遠慮だなんて」
「せっかくオゴリだって大盤振る舞いしてるつもりなのに、ささやかな金額しか出さ
 せてくれないんじゃさみしいじゃない。食べたいもの注文していいからね」
カカシがいかにも親切そうなそぶりを見せると、テンゾウは何か、を少しふっきった
ように顔をあげて。
 「お気遣いありがとうございます。じゃあ、僕次は思い切って高いの頼んじゃいま
 すよ」
ありがとうございます、の声が大きめなのがいかにも若さあふれる、って感じで
好印象だ。
「ん。どぞどぞ」
「すいません、赤貝お願いします!」

・・・・・・・・・この店のお品書きが「時価」だからって、そのネタはそんなに高くないと
思うよテンゾウ・・・・・・。
少しだけ脱力しながら、カカシはひきつった笑顔で同じものを注文した。


カカシはこの里で暗部に所属している忍びである。
里の復興のため、とカカシ自身、任務遂行を至上とし走り回っていたのだが。数年
たつと後続が配置された。これはカカシにとって新しい体験をすることになる。いわ
ゆる普通の『年下の後輩』の出現だ。
人の世話は苦手な方だという自覚があったが、忍者としての経験だけでなく人間と
して生きてきた年数すらも自分よりない人間の面倒がみれない、という屁理屈が通る
世界はそうはない。
はじめこそ多少の戸惑いはあったが、心労を伴ないつつも、辛くなったら慰霊碑に
グチをいいにいったり、勝手に話しかけて問題点を整理して指導方針を頂いてきたり
もした。先生はどうだったか。オビトは、リンは。そんなシミュレーションをしながら、
自分に無理のない範囲で相手に伝わるように暗部の心得を教えてきたつもりだ。
さすがに暗部に編入される者たちだけあって、カカシが閉口するほど使えない人間は
いなかったことは幸いだった。

ひとつだけ気に入らないことがあるとするなら、新人はカカシに夢を見すぎる傾向だろ
うか。多少は仕方ないだろう。若い・・・どころか幼児の時分から忍者をやってて更に
今なお現役だ。十代前半で上忍にも昇格したし、前火影である四代目の直弟子でも
ある。
ただ、過ぎる憧れは視界を曇らせことがあるから問題だ。
生真面目が過ぎるタイプだと、カカシの注意を叱責と感じ、叱責を軽蔑と捉えて凹み
すぎる。
おおらかすぎるタイプだと、さすが写輪眼は出来が違うと割り切って、自分はそこまで
やれないけど仕方ないだの、微妙に向上心に欠ける傾向が見受けられる。
ごくまれに、カカシに対して反抗的な、なんだよ里のお気に入りがえらそうにしやがって
どうせ取り入り上手なんだろうという目つきでこっちを見るタイプの新人もいないでは
なかったが、拳でいうこと聞かせられる分まだマシだった。
周囲の経験者に微笑ましく見守れらながら、各人のタイプを見極めつつ指導を、と心が
けてきたカカシである。
ぶっちゃけ先生ってほんとすごい。オレには向いてない仕事だと思いながらやってきた。

・・・のだが、そこでテンゾウの登場である。

テンゾウは他のどの新入りよりも大人しかったが、基本に忠実で、命令の本質を見極め
ようとするタイプだった。若い隊員にありがちな顕示欲がなく、妙に落ち着いてるから新人
達の間でも、すぐに一目おかれるようになった。
まあ、つまりはカカシの理想の後輩だった。なによりも、カカシを華美に捉えていないから、
指示も注意も普通に受け止めてくれて、理解が早くて手先が器用。仕事も迅速丁寧だ。
ペース配分が実に上手く、戦闘となると短期集中決戦型のカカシと相性がよかった。

そのうち、任務の相棒としてテンゾウを選ぶことが多くなっていったのも当然の流れとい
える。部下がつくようになると自然、世話をするのは上の常、というわけで。
今回もおつかれさま、と頑張ってくれた後輩を労うために寿司屋に来たのである。




本編へ続く。
冒頭だけお試し版です。
テンカカ本なのにはたけしかいません。
でもちょっとかわっているはず。ていうか完成原稿データ捨てちゃいました
やったーうっかりー

orz
でもタイトルはノリだけっていうかとにかくもぐもぐしてるだけの話です・・・
話を書くと寄り道ばかりになるんですが寄り道たくさんよったまま終わる
クセをどうにかしないといけない(なにその決意表明)
orz