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 ageless


上忍待機所の窓際は、冬はかなり冷える。

カカシは町医者の待合室のイスみたいな、微妙なかたさのソファーに腰掛け火鉢
の上で手を揉んだ。

待機所での常駐にも慣れたと思う。
ここはそれなりの心構えで待機している人間と、ぼんやりしてるだけの人間とに、
なぜかいつも分かれる興味深い場所だ。
前者は指示されてもいないのに真面目に鍛錬に励み空き時間を無駄にしないタ
イプ。後者はオレみたいなタイプだ、とカカシは鼻白む。
読むといっても娯楽小説、見るといったらテレビでお昼のワイドショー、聞くといっ
たら誰かが忘れていった寄席のテープを拝借したり、ごろりと横になることもある。
まるで自室のような寛ぎようだ。

面白いのは、待機する人間が複数になると程度の差こそあれ、必ずその二種に
分かれていくことだ。毎日同じメンバーで常駐してるわけではなく、だいたいが
知った顔ばかりが出入りする場所である。たまに昨日まで真面目に本を読んで
た人間が今日は寝てるなと思うと待機のメンバーが増えてたりする。

比率が変わったためだ。これがいざ中忍や下忍となるとこううまくはいかな
い。その時の流れや人間の勢力図によって、圧倒的にどちらかの比重が増す。

まあそんなわけで、なぜだかそうやって無意識のうちに、上忍は待機所では二
種類の枠のうちのどちらかに所属することになる。

急を要す任務が指名でなく入る場合、動き出すのは真面目な方で、ぼんやり組
は一旦待機。そして真面目組がいなくなると次はぼんやり組の中から真面目に
待機するやつが出てくる。

総動員で対処しなくちゃならないときは多分、即効で全員動き出すに違いない。
そういう意味でいうならば、さすが上忍、平時より無駄な動きは一切しないと自
賛してみてもいいんじゃないかと思う。

申し合わせているわけでもないのに、自然とその空気を読んで分裂していく同僚
を見るたびにカカシは感心するのだ。研究してもいいかも、くらいには考えている。
毎日統計とって分別していったら、もしかしたら誰かが一番楽してたり損したりして
るかもしれないじゃないか。

つきつめてどうするという気もするが、まあ単純な好奇心だ。
少なくともここ最近で最も楽をしているのは自分のはずだ。日中は読書タイムとば
かりに、鼻歌交じりに愛読書をポーチから出してめくった。

 
カカシはここに待機するようになってから、慌てて飛び出していったことがまだ一度
もない。最後の一人になってもボンヤリ過ごしているからだ。

つまり、ここで余暇を過ごすのが、今期一番多いはずなのだが、当然研究が進む
わけもない。

なぜなら面倒くさいからだ。

 


去年の夏の終わり、カカシは正式に上忍に戻った。

上忍師になるはずだったが、なれなかったのだ。
試験を行って結果が落第だったから、正式に生徒を取ることはできなかった。

落としたことを後悔してはいないが、おかげで奇妙な二重生活を送ることになった。
後進の育成にあたる以上、暗部は抜けなくてはならない。そうして表舞台に出る
ために、ただの上忍に戻ったはずだったのだが。

いまさらなあ、という気がしなくもない。

そもそも暗部での活動も最初から微妙なものだった。


当時は、九尾来襲により里の体力が低下していた時期でもあった。木の葉に敏腕
の忍びありと大々的に戦力をアピールする必要性があったのだ。そのため、時折
上忍として通常の任務をこなしてきた身の上だ。
多少の演出も仕方がないものとデモンストレーションのつもりで派手にやっていたら、
そのうちビンゴブックに載った。
そのことすら利用しながら働き続けたのだが、そのうちビンゴブックに載った暗部って
どうなのよって話になって、あ、じゃあ抜いて後進でも育成させる?みたいな笑える
流れでお役御免。


三代目が少し踏ん張ってくれたようだったが、余裕を取り戻した里の実力者達のご意
見に押し切られた。
いやホント平和になったもんだ。

 
そういうわけではたけカカシは上忍師(見習い)だ。
生徒落ちちゃったんだ、しょうがないね。じゃあまた暗部に行く?ってわけにもいかない
から、毎日ボンヤリと過ごしている。
血で血を洗う日々も少なくなかった去年の今頃に比べたら。
のんびり日向ぼっこしながら素敵な御本読んでご満悦で待機中ですよ。信じられない。
周囲からは、昼行灯に成り下がったと思われているに違いない。
天才が二十歳を超えて凡人になったのだと嘲笑する声も聞こえなくはない。
昼行灯。正直大歓迎である。忍びとして相手から侮ってもらえるなんて最高の贅沢だ。
その指摘は主に身内からなされるものだったがそれにはこの際、目をつぶる。
木の葉とて一枚岩とはいえない。その嘲りがいつか自分を助ける日もくるだろう。
「これで、窓際も暖かかったら最高なのになあ・・・」
「だめだ」
割り込んできた声の主は、既に上忍師として任務についている昔馴染みだった。
「お?・・・かえり。アスマ、明日戻りじゃなかったの?」
「結構ガキたちの出来がよくてな。早く終わった」

アスマはだるそうに首を回しながらカカシのいるソファに近づくと、無造作に、ソファの
上に投げ出されているカカシの足を掴んで床に落とした。
「土足厳禁だ」
「今日、瞬身できたから足はそんなに汚れてないよ〜」
「待機場所に出勤するのに、そんな技使ってんじゃねえよ。だらしねぇ」

カカシのつま先のあった場所にどっしり腰掛けると、ようやく一息、といった具合で
煙草を取り出し火鉢から火を取る。
「ライターとか持ってないの?」
「あれだ、エコ」
「しょぼいよアスマ先生。まあ、はやめのお帰り、お疲れ様。で、駄目ってなんで?」
「あ?何のはなしだ」
「あんたが自分で言いながら登場したんでしょ。やだな老化?」
「あー、それか。それはな。中で火焚いてんだから、窓際くらいちっと寒い方が良いっ
 てことだ。窓際まで温くなったら暖かすぎてやってらんねーだろ」

それこそ寝ちまうぜ、と、煙をぷかりと浮かべる。
「オレはあんたみたいに毛皮着てないんだよ・・・」
「うるせぇ、女子供みたいな愚痴いうんじゃねえ。冷え性か」
「そこまでいかないけど寒いよ?」
「火鉢独り占めしていう台詞かよ」
「もう二個くらいあってもいいのに、火鉢」
「炭の世話もしねーでいうんじゃねえ」
「下忍の仕事とっちゃかわいそうでしょ」
「ったくめんどくせぇ・・・そうだ、カカシ。てめぇ前の任務の報告書出してねぇだろ」
「・・・そうだっけ」
「爺が切れ掛かってたぞ。真面目に仕事してるオレにまで絡んできやがる。先週の
 だろ?さっさと出して来い」
「わざわざ呼びに来てくれるなんて・・・アスマ先生親切すぎない・・・?」
「俺ァ午後からまた任務受けに行くんだよ。俺がまた絡まれねえようにウダウダ言っ
 てねーでさっさと出せ!」
「え〜、せっかく暖まったのに・・・・・・」
「知るか。もう受付にもいねーぞ」
「じゃああっちか・・・。やだなぁ、個室だよ。話止めてくれる人がいないじゃない」
「〆切りぶっちぎった書類出されても受付も困ンだろ?さっさと怒られてこい」
「はぁい・・・・・・」

こうして、カカシがだらしなく過ごしていると、里長から時折お怒りのポーズでお呼び
がかかる。

そんな時はだいたい暗部の手伝いだ。
結局、表立って所属ができないだけで、実際は上忍の仕事以外にも、それなりに任
務はこなしている。
上忍達はそんなカカシをみて、おおよそ裏でなにかやらされてるんだろうと適当に流
してくれるが、事情を知らない人間からみたら、火影から叱責され外回りに出されて
のこのこ戻ってきているようにみえるはずだ。

ただ、とりあえず今は、その立ち居地がカカシの居場所だった。










本編へ続く。
冒頭だけお試し版です。
テンカカ本なのにはたけしかいません。
このあとテンゾウと一緒に任務話〜。になりました。