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myouji-less
 

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実際、誰かがくれたわけでも、道端に落ちていたわけでもないけれど。
しみじみと、運命めいた「なにか」に感謝したくなることは無信論者のカカシにだってある。
(やっぱり一応火影様になるのかな)
つきつめて、大蛇丸だとしたらちょっと恐すぎる。

国境近く、見張り兼防衛線確保のためにぽつんと木の上で佇むカカシの手中にある式が
緑に変色する。心配はしてなかったけど成功ってことだな、と、のんびり立ち上がり、退路
を確認する。目的の巻物を手に一直線に戻ってくる気配を背に、カカシは少しだけ口元を
緩めた。
(ルートが直線すぎでしょ、迂回しながら戻りなさいよ)

そうは思いつつも、単身で忍ばせるには少し勇気がいった潜入先だった。
だが予定よりも成功までの時間は短くすんで、目立った騒ぎが出る様子もない。
指示の飲み込みも、疑問点の指摘もそつがなく落ち着いている。チャクラの分配もうまいし
戦闘となればフルコンタクトでの格闘も出来れば、遠隔攻撃だってお手の物だ。
性格だって──相性もそんなに悪くないと思う。 
いや、本当にまったく。

──えらく、優秀な部下を貰えたものだ。

 

ちょうど陽が真上に輝くそれこそ真昼間に、わざわざ忍んで戻った二人の任務は完了した。

火影様にまず口頭で報告をし、奪還した(実際は強奪だけど)巻物を差し出して。
軽く労われたらその日は早上がり──の前に、報告書を作成しなくてはならない。
もちろんその報告書が受付所に提出されることはないが、暗部だって暗部なりの受付や
書類がある。暗部こそ真の隠密よとかいいつつも、火影様と各人の伝言ゲームで全てが
進むほど暢気な世界でもない。団体行動する以上、情報共有は必要だ。

普段は夜間の出入りがほとんどだから、任務達成の報告を終えれば、書面提出は急ぎ
以外は翌日のんびり、というのが基本ではある。
今回の任務も緊急でない分、許可されている通り早上がりして休みに入ってもかまわない。
かまわないのだが、体力も余分で陽も高い……となると、微妙に早退しづらいのが働き者
の道理というものだ。
(オレって案外小心者だからねぇ……)
カカシが解散を宣言しないため、当然のように後ろをついてくるテンゾウと共に、暗部詰め所
に向かう。
カカシ達の出入りする詰め所や一部の事務窓口本体は、厳密に言えばアカデミーに隣接し
ている。当然カモフラージュで外からは監視棟の一部にしか見えないし、結界で規制もされ
ているから、ダミーエリア以外は、基本身内しか出入りできない。
ただ、驚くくらい素直に『暗部のへや』と手書き(しかもちょっと字が拙い)看板が掲げられた
休憩所に入る度に思う。

この緊張感のかけらもない看板、誰か書き直せよと。

(なんかココにくる度にお人形遊びしなきゃいけない気分にさせられるんだよな)
なので、入り口をくぐる前に一回看板につい視線をやってしまう。他の人間もたまに出入り口
でボーっと看板を見ていたりするから、同じ気持ちなんじゃないかと疑ってはいる。

「カカシ先輩、どうかしましたか?」
「……いや、ごめん。ぼーっとしてた」
「そうですか。先輩は個人任務の後ですからね。お疲れでしょう」
「そんなことはないよ。さ、仕上げやろう仕上げ」
「はい」

気遣うように微笑まれては、いやこの看板がたまに妙にむかつくんだよねとかはいいづらい。
良い先輩は任務上がりに、そんないちゃもんはつけたりしないものだ。
きっと。
 
 

新人が真の登用試験という名目で部署振り分けをされてから半年が過ぎた。増員が功を奏した
のか、状況も落ち着き、里に常駐する暗部の数も増えてきたように思う。
里の中に暗部詰め所はいくつかあるが、事務窓口を併設したこの場所が一番人が集まるのが
道理だ。この日も当然、室内は待機やカカシ達のように書類を作成している者で賑わっていた。
カカシはその中の先輩格の男たちに軽く目礼をすませ、目下からの挨拶を片手でいなしながら、
空いている席にテンゾウを誘った。テンゾウはテンゾウでよりカカシよりより多く頭を下げている。
ある意味テンゾウたちの世代が、現在の暗部内最下層なので仕方がない。
そろそろ、テンゾウを筆頭に昇進しそうな子たちはいるけど。

思ったより新人優秀だったよねというのは、カカシら先達の共通の認識だ。

「ほい、書類」
「はい」

報告書の作成は最近はずっとテンゾウにやらせている。
暗部記述で記された報告書の作成もずいぶんと手馴れたものだ。
 

「カカシ、またやらせてんのか」
「あ、スズメン」
「ん、は余計」
「はいはい……」

雀面は、カカシの新人時代から居る、比較的古参のメンバーだ。ついさっきカカシが目礼した内の
一人でもある。テンゾウたちの導入における試験官だったこともあって、テンゾウとも面識がある。
元々世話好きな男だ。なにかにつけ、声をかけてくる。

「報告書くらい書かせてもいいでしょ、新人教育の一環です」
行儀悪く、椅子の背に両腕を投げ出して座席ごとからだを揺らしてるカカシの動きを片手で止めて、
俯いて記入を続けるテンゾウの手許を覗き込んでくる。
「苦手な分野、押し付けてるんじゃないだろうな?」
「人聞き悪いなー、キョウイクっていってるでしょ」
「押し付けられてるって思ったら言えよ猫面」
そんなからかいにも、テンゾウはそつなく返す。
「はは、そんなことはありませんよ」
「ほらな?ないの!大丈夫なの。はい邪魔しないであっちいって!機密なんだからさ」
しっし、とコドモのように手をふって追い払おうとするカカシの態度に肩をすくめただけで、雀面は元
いた場所に戻っていった。
「失礼しちゃうよなあ、まったく」
雀面が椅子に座るのを軽く睨んだまま、カカシがこぼした。
「目をかけてくださってるんですよ」
視線は書類においたまま、さらりと言われる。クールなやつめ。
「まあ、オマエは割りと有望株ではあるよ?だからってね……」
「あなたのことですよ」
「ん?」
聞き返そうとしたときに、すっと目の前に書類がつきつけられた。
「できました。確認お願いします」
そういわれたら、雀面の話題なんか打ち切るしかない。
出来上がった書面に目を通す。数をこなしただけあって、暗号での記載も既に問題がなくなりつつ
ある。
けど、ちょっとだけ。
「ん、大丈夫……かな、内容は問題ない。けど、テンゾちょっとクセ字じゃない?」
「すみません。読めませんか」
カカシの指摘に、テンゾウの眉が寄せられる。
「いや、読めないわけじゃないけど。左が上がるね」
正確にはこう、とカカシが見本をつけると、テンゾウは真面目に頷いた。
「……ほんとだ、気をつけます」
「報告書はこうして確認も出来るし、後で修正きくからかまわないけどね。現場でやると大変だから、
注意してみて。ハネと止めはきっちり」
「はい」
テンゾウにつっこみどころがあってよかった。先輩の名目がたつというものだ。
そうだ、とそこで思い出す。
「退路……といえば言うの忘れてた。今日の任務」
「はい?」
「だから、退路。オレんとこに、まっすぐ戻ってきたでしょ」
「……ええ」
「道筋が綺麗すぎると、追っ手から逃げた方向とかルートがすぐにわかっちゃうから、もう少しジグザグ
に走った方がよかったかも」
「……あ、すみません、戻りながら木で細工してたんで、大丈夫かなと」
「細工?」
「はい、通り過ぎた後の道に脇の木の枝を伸ばしたり、生やしたりして。もし犬使われてもちょっとは
苦労するかな、と」
「あー……そうか、木遁?」
にっこり頷く。
「便利なヤツだな、テンゾウ」
 

そうだったよ。こいつにはそういう便利な機能も備わっているんだった……。


 
 
 

本編へ続く。
冒頭だけお試し。3P分くらい。