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 ふたりぼっち(任務後というか)


    閉じ込められたなあ、と思った。
    豪雪地帯での任務を終えた帰り道。急激に変化した天候に備えて、山の中腹に
    程近い場所でビバークすることになった。具体的な位置がつかめないのは霧が
    濃くなって視界が全く利かないせいだ。無理をすれば降りられないこともないが、
    そこまでする必要もないといえばない。
    安全・丁寧を今年のスローガンにしているカカシは当然のごとく小休止を選んだ。
    ていうか、暗部でスローガンってなんだと思わないでもない。

    「惜しかったなぁ。あと半時あれば、霧の影響でないとこまでいけただろうに」
    つくづく惜しい、と重ねてぼやきながらカカシは丸い背中をより丸めた。
    「まあ、大事がなくてよかったです」
    暗闇の中、きしむような風の音を外に感じながらテンゾウも身体の力を抜く。濃い
    ガス状の霧は、僅かな水分の変化を逃さず、強い吹雪に変わった。
    状況が酷くなる前にとっさに作った雪避けの中に滑り込めてよかったとしみじみと
    思った。地面の雪がさらさらしているせいで、最初は作りづらかったのだが、吹雪
    のおかげか水気を多くはらんだ雪となり、作業をすぐに助けてくれた。でも元はそ
    の吹雪を警戒してこうなっているわけで。うまくいったようないかないような複雑な
    気持ちになってしまう。

    「フン、そーれーはどうかな〜。大事の前の一休みかもしれないじゃない」
    「そういうこといわないでくださいよ」
    「油断しちゃいけないってことをいってるだけですー」
    「はいはい」
    てきとーに流すなよ、とぶつぶついいつつも、言葉ほど不満を感じてはいないこと
    は触れた肩が小さく揺れていることから感じ取れる。
    「お天道様には勝てませんってよくいうからね…ま、しょうがないんだけどさ。山と
     か海とかほんと恐いったらないよ…あーでもなんかもう火、使っちゃいたいくらい
     寒いね。寒いよほんと」
    「それこそ使っちゃだめですけどね、火。てか寒いっていうのやめません?ほんと
     に寒くなりそうでやなんですけど」
    「テンゾウ、家出してよ家。こないだ作ってくれたでしょ、ほら小さいやつ。ログハ
     ウスぽいの」
    「こんな強い風の中でそんなもの出しても意味ないでしょ。外に結界張るわけにも
     いかないし、先輩、ご自分がいった山での注意をなぎ倒すような注文はやめてく
     ださいよ」
    「けちー」
    「もしかして疲れてません?」
    「疲れてはいないよ」
    「引っかかる言い方しますね。じゃあどうなんです」
    「オマエは疲れてないの?」
    「疲れてはいますけど余力がないわけじゃないです」
    「ビミョーな答えするなあ」
    もじもじとこちらを伺う気配。でも事実なので撤回はしない。

    「で、どうなんです?」
    「うーん。ちょっとだけ寒いかなあって思うくらい?」
    それは血が足りてないせいだと思いますよ、という言葉は飲み込んだ。
    帰路でさんざん話題にしては、結局ごまかされていた言葉だから。
    カカシの今年のテーマは安全・丁寧なお仕事である。それはまだいい。テーマな
    だけで実害はないから。
    だが、実際のところ、安全丁寧な扱いをされるのは彼の施す仕事の対象に限ら
    れる話である。彼の周囲の者であり、依頼者であり、ちなみに本人は取り扱いの
    対象に含まれていない。
    変なところで完璧主義で、任務の遂行と仲間の無事ばかりを優先させて、本人は
    なにかしら毎回欠損するわけだ。それで自分だけ血まみれになって、全身無傷な
    ボクたちを確認しては、それはそれは満足そうに、嬉しそうに笑うんだ。

    ヘンタイじゃないか。

    「ボクの前に入れます?そっちのが暖かくないですか」
    「え、なにそれサービス?やだよ、テンゾウだいたいオレより体温低いじゃない」
    「低くはないですよ」
    「うそ、低いよ!」
    「低いとまではいいませんよ。似たり寄ったりっていうんです」
    「まったビミョーな答えだよ」
    「いいからほら」
    減らず口をいう人を強引に腕の中に抱きこむと、思いがけない軽さに、少しばかり
    驚く。
    「あー」
    「あー?」
    「オレの体温がじわじわ奪われてくよーな気がする…」
    「人聞き悪いなあ」
    「…でもなんでだろう、暖かいわ」
    「そりゃそうですよ」
    「なんで?」
    「いくら自分の体温より低いとしても、マイナスの空気よりはマシでしょうが」
    「あー、そっか。」
    「・・・いまもしかして素で納得してませんか」
    「したした。びっくり。オレほんと頭働いてないわ」
    ハハ、と笑うカカシを少しきつめに抱きしめる。僅かに汗と。それに混じって土と血
    の匂い。そのまま二人は押し黙って、風の音を聞いた。
    呼気が、相手の皮膚に温度をわけて、すこしだけ冷えて自分に返ってくる。
    そんな近い距離で、カカシは身じろぎしながら楽な姿勢を探しているようだった。

    「・・・ミス」
    「うん?どしたテンゾー」
    「ミスしたのボクですね。すいませんでした」
    「まだいうんだ。今回はそだね、オマエのミスだったかもしれないけど、次、気をつけ
     てくれればいいんじゃない?そう何度も謝られる様なことでもないよ。それに今度は
     オレがミスするかもしれない。こーいうのは持ちつ持たれつでいいんだよ」
    「先輩は持ってばかりじゃないですか」
    「そんなことないけど」

    それこそ、そんなことはない。
    だからいつもアナタばかり血まみれで、ヘロヘロしながら帰還するんだ。
    まだ完全にカカシを支えるほど強くなれていない自分がもどかしい。もう一度、腕に
    力を込める。
    「イタイ、いたいよ」
    笑いながら、腕をとん、と指先だけで叩かれた。
    あきらめきれないように、それでもテンゾウは両腕の力を抜く。
    「・・・すいません」
    「それもう聞き飽きた」
    笑みを含んだ声が、テンゾウの右手首をくすぐった。

    この人と組むようになって一年が過ぎた。
    背中しか見えないと思っていた彼の隣に立てるようになった。と、慢心が生まれたの
    か、恥ずかしい凡ミスで助けられて、あげくカカシに怪我をさせている。
    大事に至るような怪我ではないが、正直堪えていた。
    彼の助けになれているかもしれない、という自負を意識し始めていた時期だったから
    余計に堪えるのだ。彼を支えるなんて、単なる思い込みでしかなかったんじゃないか。
    というより、役に立っているかなんて、主人に尻尾を振る犬のような。へつらうような
    態度の自分がいることが気恥ずかしかった。
    横顔を伺えるようになったと思った瞬間、また背中しか見えなくなった。
    そんな気分だ。

    「へこんでんじゃないよ、テンゾウ」
    「・・・へこんでませんよ」
    「そんなしみったれた声でいわれてもねぇ。ほんと不思議なやつだよ、落ち込むような
     こと一切ないじゃない」
    ありましたよ。
    あなたは怪我したじゃないか、自分のミスのせいで。
    声音に拗ねた響きが混じりそうで、言葉が出せなかった。だまりこんだテンゾウをどう
    受け取めたものか、右肩に頭がことんと乗る。
    「そういう後悔はオレが死んでからするもんだよ。オマエがいまやるべきことは反省。
     わかる?」
    「・・・・・・はい」
    「やだなー、テンゾウが素直だと気持ち悪い。そういう意味では、すごく詫びて欲しい
     ような気もするけど、ね」
    くすくす笑う、その憎まれ口すら暖かく感じる。
    「・・・せめて、暖をとる手伝いは完璧にこなして見せます」
    「あー、その完璧主義はいいね。うん、イイ」

    どうしてこんなに違うんだろう。年もそう違わないのに、甘やかされてるような気分に
    させられる。手の上で慰められてるような気もする。互いに助け合うべき仲間なのに。
    それに庇護もされている。
    そして、自分はそれをまだどこかで嬉しく感じている。
    そのことが少しだけ、悔しい。

    「休んでください。風の音が収まるまではここにいましょう」
    「うん。寝るね。ごめん、お休み」
    「寝てくださいね。おやすみなさい。何かあったら起こしますから」
    「なにかあるようならさすがに気付くよ」
    「それでもです。おやすみなさい」
    「・・・はいはい、オヤスミなさい」
    ふふ、と軽く息を吐き出しながら、腕の中のものは重みを増した。
    口数の多い方が寝入ったら静かなものだ。ただ、彼の場合、本当に死んだように
    眠ってしまうのが、ちょっとだけ恐い。

    手の中には大きなぬくもり。
    外は雪。視界は悪く風が強い、閉ざされた世界。
    ふたりきりしか存在しないような気持ちにさせられる。
    いっそふたりしか存在しないのなら、くだらない顕示欲もないのだろうか。
    役に立てているかと相手を伺うこともなく、堂々と、ただ単に自分らしく、いることが
    できるだろうか。そんなことは妄想でしかないが、というかそもそも自分らしくって
    なんだ。


    もう少しだけ体温が高ければよかった、とふと思った。


    自分から、この人に分け与えられるものが僅かでもあればよかったのに。









後輩後ろ向きキャンペーン増量中
>どうしてこんなに違うんだろう。年もそう違わないのに

「でもさテンゾウ、おまえ忍者になって何年よ」
「実質3年ちょいですかね」
「オレもう忍者生活13年なんだよね」




あーなるほど。みたいな。

とりあえず経験が違うんだと思うよ。というわけで先輩19テンゾウ17
なりかけ?みたいな感じ??(?ていわれても)

先輩はちょっと自虐ネタが大好きな見た目がちょっとだけ猟奇的な
先輩です。そーいう意味では先輩もやや壊れ気味。任務話の書き
かけの亜種のサルベージ(サルベージ人生)・・・(追記)そして日本
語が破綻した部分を慌てて修正・・・!き、きっとまだある見過ごしが
・・・!orz ほんとすいませんorz