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 夜に潜む怪人

    ※たいしたことないですが、人によってはプチグロぽいか もしれません。(書いててわから
     なくなったー)内臓とか聞くだけでorzな方は回避してください。









    はじめてそれを見たとき、ぽかんとしてしまったことだけは覚えてる。
    とにかく、単純に驚いた。
    噂は本当だったのか、と。


    今日みたいな血生臭いドロドロした任務の後に、ときおり白い怪人が降り立つ
    という噂。

    闇夜に浮かぶ白い体躯。
    近づくと、ところどころに散らされた返り血で薄汚れており、両手だけが奇妙に
    赤いのだ。
    その先には自ら切り刻んだ生肉を大事に黒い袋に入れて持ち運ぶ。



    人はその怪人を、殺伐コックさんと呼ぶ。






    ……………失笑したのはボクだけじゃないと思いたい。





    暗部の愛すべき同僚(読みはいっそ『バカ』でいい)らが、そんなことを囁きはじ
    めたころ、ほんとこいつらバカだなあとか同年代とは思えないとか冗談にしても
    ネタすぎるだろうとせせら笑っていたのだが。

    「あれ、テンゾもフォローにきてくれたの?」

    なんのことはない、問題のコックさんの正体ははアレだ。
    先輩だったんだといきなり気がついた。

    細長い体、胴当ては白が基調だがところどころに返り血。そして面を強引に上
    げて、クセのある髪の毛が押し上げられている。
    この人の場合、綺麗に見せようとか御髪整えないと、みたいなそういう部分が
    ちょっと欠如してるから、面が前髪を噛もうがはねあげようが構わないといった
    風に、グイっと上げただけになる。
    そうするときらきら光る銀糸は縦だの斜めだのに押し上げられて。
    遠めにみると髪の毛が縦に長くみえるのだ。

    コックさんというのはたしか、異国の調理人のことだ。
    そうそう。縦長の白い帽子を被ってるんだよね・・・。そういう意味ではたしかに
    似ているといえなくもない。
    UMAは本当に実在したのではなく、名前を出して囁くのはちょっと、なヤツら
    の、彼らなりの隠語だったのだ。
    「間に合いませんでしたね。すいません」
    なんとなく到達してしまった仮定を結論にして、内心はともかく、平然と先輩に
    挨拶してみせた。
    「んーん。仕方ない。非番でしょ?」


    霧隠れの抜け忍が火の国に入ったと連絡を受けてから僅か数日。血継限界
    だったその男は、自らの性か追い詰められたか。

    この国の領土で殺しをした。

    その後更に警戒を強めた暗部の一隊と接触。その結果がこの血溜まりだ。

    「先輩こそ、担当違いでしょう」
    「オレ帰ってきてる途中で鳥受けてさ。びっくりしてきたんだけど、間に合わな
     かったねぇ」
    「・・・ターゲットは流石にもう辿れませんかね」
    「あ、それは先の方にいたよ」
    先輩は自分の背後に視線を流し、方向を示してみせた。
    「軽く南の崖下で死体になってた。結界も張って処理班にも連絡はしてあるか
     ら、こっちに先に手当てをと思ったんだけど・・・ここまで間に合わないのがミエ
     ミエだと切なくなるねぇ」
    「・・・・・・そうですね」
    「敵さんの逃げた距離からして相打ちとは言い切れないかもしれないけど・・・
     こんなになりながら、よく追い詰めたよ。」

    周囲に人の形のまま残っている者はいなかった。
    その為の、血溜まりだ。

    「ずいぶんぶっとい刃でやってくれたもんだ。崖から転落した時に刺さったんだ
     と思うけど、当の本人も同じ獲物でやられてんだもん。悪い冗談だーよ」
    先輩はそうやって文句を言いながら、仲間だった者たちの一部を探ろうと目線
    を合わせず、語り続ける。
    「・・・・・・手伝います」
    「そう?悪いね」
    じゃあコレ、といって差し出されたのは右手の黒い袋。
    「あと、二人分はあるはずなんだ。とりあえず見つけられる形は拾ってあげて。
     どこも人手不足で、処理班もあっちが先らしいからさ」

    もうすぐ夜があける。これだけ里に近いならば、現状確保が基本ではあるが、こ
    れだけ散らばってしまうと、先に回収してしまわないと獣に取られる可能性もあ
    る。位置は後で報告すれば敵と衝突した時の軌跡は辿れるだろう。

    ピンと張った背中を追うと、視線は木々の枝を辿っている。
    上にもあったんだろうか。物騒な話だ。
    先輩に近づくと、肘から先が特に赤いのがわかる。
    面を上げたその顔には汚れ一つ見受けられない。
    闇に浮かぶ白皙の美貌。憂いを帯びた眼差し。片目を縦に裂いてはしるその傷
    すら飾りに思える綺麗な男だ。
    こんな森の中に無造作に存在することに違和感すら覚えるほどに。
    ただ、その血まみれの姿が奇妙なほど馴染んでもいる。

    これは単なるボクのイメージか。慣れなのか、客観的な観察なのか。

    判断がつかないままぼんやりとうかがうボクを尻目に、先輩は普段閉じたままの
    左目を開いて、周囲を見渡している。

    「内臓はさ」
    「・・・はい」
    「オレが今探してるから。お前外側頼むよ」
    「わかりました」

    いわゆる瞳術でそんな探索が可能とも思えないが、なんせ相手は写輪眼だ。
    なんらかの術を発動させているのだろう。

    「流石にね、犬に探させるのもなんだと思ってねえ」
    口調はのんびりしているが、姿勢と視線はピンと張り詰めたままだ。
    「・・・このまま全員保護したとしても、そのまま遺族に渡ることもないでしょうに」
    茂みの脇に、落ちている腕を回収する。
    「まあね」
    血継限界の人間とやりあったのなら。
    その返り血を受けてる可能性があるなら尚更だ。処理班に全て引き継がれる。
    その後の処理の話はあまり考えたくはない。
    遺族には、あれば遺品が届くだろうとしか。

    「でもうちの子たちだもん。せめてまとめてあげたいじゃない」
    見つけた、といいながら傾いだ枝ぶりの木に飛び上がり、なにかを回収する動
    きをしてみせた。
    「酷い力技だなあ。空中で斬られたんだね」

    過去に何度かこういう凄惨な現場を経験したことがある。その経験から、こんな
    ときボクは回収するものを人間の体だと認識しないようにした。
    そうする方が少なくともボクにはいい。
    情に流されすぎて必死に集めたくはない。その後の動きを狭めるからだ。
    心のどこかでそういう風に感覚を切り離さないと、冷静で居続けることは案外
    難しかった。
    明日はわが身、と諦観していられるほど悟りきれてるわけじゃない。
    こうやって人がモノになる瞬間には未だ慣れない。
    人である筈の時代にモノ扱いされていた経験があるから尚更だ。


    だから、先輩が淡々と作業を進める姿に。妙にその状況に馴染んだ・・・というか、
    馴染みすぎているような、そんな薄ら寒い気にもなる。
    背筋が伸びてること以外は、あきらかに普段と変わりない姿だ。
    声だって普段のちょっと力を抜いたふつうの声だ。
    考えてると急に、ふふ、と小さく笑う息遣いが聞こえた。いやなタイミングで
    笑わないで欲しい。
    「テンゾウはさあ」
    「はい」
    「やさしいよね」
    「・・・・・・そうですか?」
    どういう流れでそんな言葉が出てくるのかわからなかったが。
    「嫌悪感出さないでしょ。かといって同情するわけでもないでしょ。あー自分
     を律してるんだなってオレいつも感動するよ、そーいうの。気遣いっての?」
    「・・・・・・」
    「あ、気を悪くしたらごめーんね。からかってる訳じゃないんだけど」
    「先輩も」
    「ん?」
    「先輩もこういう時、感情を出さないように作業されてるんですか」
    「うん?うーん。そうかもねえ。でもどっちかっていうとアレかなあ、肉屋さん
     みたいな気持ちで集めるよ」
    「・・・肉屋?」
    「そう。人聞き悪いからあんまりいわないようにしてるけどね。心構えとして
     は肉屋」

    急激に手首から先が冷えるような気がした。
    今自分が持っているもの。それはなんだ。

    「調理師でもいいけど」
    「・・・・・・・・・・・・・・・倫理的にどうかと」
    ようやく搾り出した声は、僅かな怯えと、呆れを含んでいた。
    まさかそんな考えでいるなんて思いもしないじゃないか。
    確かに今これは肉だ。肉片だ。それ以外の何者でもないのに、なんてひどい
    こというんだ。

    「繋がってるうちはきちんと人間なんだけど、不思議だよね。体から切り落とさ
     れちゃったら、やっぱりコレは単なる肉なのよ。ここに凄腕の医療忍がいない
     限りは落とした肉が元にくっつくなんてありえないし、うまく神経が繋がるか
     なんてまたわかんないし。持ち主の命が消えてるなら余計にね」
    それはただの肉。

    左の茂みの裏に右手があるよ、と至極のんびりと指示を出してくる。

    「・・・混ざったりしないんですか。ボクは見分けはつけられません」
    「そこまで厳密に区別しなくていいよ。どうせ後でまとめて検分されて処理され
    ちゃうから」
    「・・・だったら、こんなに細かく拾う必要だってあるんですか」
    「あるよ。上手く集まったら、みんな墓に入れて上げられるじゃない。里のこん
     な近くで任務中に死んだんだよ?弔う人がいる限りそれなりの場所において
     あげるのが筋ってもんでしょ」
    「それにしても肉屋だなんて表現が悪趣味すぎます」
    「商売のタネだって目の色変えて追いかけるくらいしないと、肉片追いかける
     情熱なんてないもんだよ」
    「・・・それで?集めたら、どうするんですか」
    「集めたら?って集めたら終わりに決まってるじゃない。まさか食べたりはしな
     いし、売りにも出さないよ。集めたら、おつかれって一声かけて医療班か処理
     班に渡す。それで終わり」

    まあ、たしかにその通りだ。
    いくら肉屋に例えられたかといって、この人に異常な趣味があるとも思えない。
    あえていうなら、どちらかというと異常なほど普通な人だから。

    「でもやっぱり悪趣味です。言わなきゃいいのに」
    「オレだってね、人みて言ってるつもりですー。ほら非番君、さっさと働こ」
    それもそうだと思ったので、顎を軽く引き諾を示した。

    それからはお互い黙って作業を続けた。
    あー、というため息のような声が聞こえたのでふと振り返ると、先輩がうっかり
    落ちてきた面を血濡れの指で押し上げたところだった。

    右の眉あたりから前髪までが、しっかり血で汚れている。

    帽子を汚したコックのようで間抜けな絵になっていたが、その姿は、服を汚して、
    立ちすくむコドモのようにも思えて僕を落ち着かなくさせた。

    先輩は肉屋の気持ち、の通り、あらかたの中味を集めきった。
    それに習って僕も可能な限り拾いきった。はずだ。

    袋を覗いて数を数えていたのは正直ついていけなかったが、真剣なその眼差し
    に、いっそのこと、本当にここが調理場だったらよかったのにと思った。
    ここが、森の中で、集めているものが仲間のモノなんかじゃなかったらどんなに
    いいだろう。
    肉屋というのは乱暴だけど、言葉の通り、商売のタネを集めているだけの普通
    の人間なら、血濡れだろうがなんだろうが問題ないはずだ。

    でも残念ながらここは森の中で。僕らは単なる忍びだ。
    そしてこの手の中の肉も、大事な商売道具なんかじゃなく、明日はわが身の
    世知辛さ。

    「終わったね」
    「はい」
    「おつかれさま。手伝ってくれてありがとう」

    そういって笑った顔は、さっきまでの張り詰めた雰囲気とは異なっていて。
    先輩の前髪から、固まった血が剥がれるように落ちるのを目で追う。

    こんなに気持ちの切り替えの上手くて、不器用な人もいないだろう。
    その言葉は外に出ないまま、なんとなく自分の中にとどめられた。







orz
UMA〜怪奇心〇霊現象のパロっぽく軽い気持ちで
書いてみたらちょっとグロにもなれないmoeもない
おそろしいSSになりました。

むしろ、私のアゴが落ちる。
あのガセだらけの2分番組が大好きです。時々
本気でハラ立てるくらいショボイのがたまらない。

えっとまだ暗部なりたてのテンゾウぽい感じで。青くて
青すぎてちょっとすいませんな感じです…orz
あとはたけが妙な人ですいません。これ可愛い話に
しようと思ってたあたり自分がよくわからないorz
偉大なる先輩レジェンド探しで必死です。(私が)