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    この季節の病院となると、風邪っぴきの子供や老人がまばらに散っているのが常
    だったが、師走の忙しさに負けたものか働き盛りの大人たちも含めて結構な人数が
    ロビーに溢れていた。

    忙しなく動く看護婦を呼び止め、テンゾウは「ほむらさんの病室はどこでしょうか。
    入院したと聞いたのですが」と尋ねた。彼女が入院患者のことでしたらこちらに、と
    ロビーの端の案内所へ連れて行き、そこで改めてもう一回。
    受付員が手元の書類を視線でなぞってから、顔を上げて「3階の0311号室です」
    と答える。ありがとう、と残してテンゾウはのんびりと階段を上がる。
    3階にたどり着くと休憩場所の横にまた受付があって。
    ロビーと同じやりとりをして、入室簿にサインをし指定の病室へと向かった。一人部屋
    なので、ドアの手前で軽くノック。
    「失礼します、ただのです」

    名乗った後は一旦返事を待つようなそぶりで、ゆっくりと病室に入っていく。
    中には少々くたびれた感じの中年の男がベッドに腰掛けて本を読んでいた。
    しゃがれた声で男が「よくきてくれたね。久しぶり」というと、テンゾウは「ほむらさんが
    入院だなんて驚きましたよ」と微笑みを返す。

    ここまでが入室のマナーになる。

    男はテンゾウの言葉を受けると、指先を回すような動きをみせ視線を本に戻した。
    テンゾウはそのままベッドを左手に窓の方へ歩き出す。
    ふと、窓の手前でなにかやわらかいものを通り過ぎる感触があり、それを抜けると
    無機質な廊下に出た。
    右手奥のドアには絶対安静の文字がでかでかと張られている。

    こういうのは、この人の場合に限って中に書くべきだとテンゾウは苦笑いを浮かべた。


    先輩は今日も元気に入院中だ。

    絶対安静と札の貼られたドアの中。さらに厳重に張られた結界の中でひとり静かに
    横たわっている。
    この重病患者の治療法はただひとつ。注意書きの通り動かさず寝かせとくだけだ。

    今度は少し表情を乗せた声でしつれいします、とドアの前で一言。返事をまたずに
    それを開く。ベッドの上で、前回訪れたときよりいくらか明るい顔色になったカカシが
    弱く、そしてゆるく手を振っている。
    テンゾウはそれに向かって、おつかれさまですと軽く微笑んだ。

    「はい、おつかれさまです」
    「イヤミなんですけど」
    「知ってるよ。どう?無事終わった?」
    カカシは寝転がったままテンゾウへ向きを変えた。
    テンゾウはマフラーをベッド横の椅子の背にかけると、上着に手をかけた。さすがに
    病室は暖かさが過ぎる気がする。
    「はい。問題視していた件も取り越し苦労で終われました。期間も短く澄みましたし
     全員怪我はありません。先輩も思ったよりお元気そうでよかった」
    「ぼちぼちだね。まああと2日くらいでいけそうな感じ」
    「トイレに?」
    「さくっとシモから入らないでくれるかな」
    カカシが顔を顰めるのに回復の度合いを感じる。先週初めてここを見舞った時には、
    まだ表情を繕う余裕もなかった。弱ってるのを隠せない先輩というのは新鮮だなと
    こっそり思ったものだ。

    「医師はそんな風にはいってませんでしたよ。あと二週間は必要みたいですけど」
    「過保護なのよね、ウチの看護体制って」
    「まあ、仕方がないというか心強いと感じるべきなんですがね。見舞いに来たフリ
     して四回チェックポイント過ぎないと、ココのフロアにも入れないんだから。苦労して
     入ってきたっていうのに、先輩は気軽に顔晒してるし」
    「でも流石に如才ないね。以前新人がゲリラ見舞いに来たときはさ、ちょうど結界
     張りなおして手順も変わってたから、見事ひっかかっちゃったもんだよ」
    「そうなんですか?」
    「うん。見張りが偶然にも元上司だったんだって。勢い無くしてキョドっちゃってさ、
     あわてて抜けようとして窓から下に落ちちゃったという」
    「あ、あの結界引っかかると下に落ちるんですか?」
    「その時はね。今は多分通り抜けできなくなってるかな」
    「やだなあ」
    「ぶつからなければいい話だよ」
    「先輩も話逸らし成功したわけじゃないですよ。顔。何の為に普段から口布してる
     んだか」
    「だってさー、口布の替え忘れてきたんだよ〜。犬呼ぶにもそのチャクラがないん
     じゃお手上げだよねえ」
    「借りればいいじゃないですか。警戒心薄すぎです」
    「美学にそぐわないと言うか・・・」
    「美学?」
    「病院の口布って白いのヨ」
    「・・・・・・おとなしくマスクでいいですから」
    「まあ、めんどくさいだけだからそのうち・・・。警戒心たってね、今の結界もぐって
     きちゃう奴らなら知り合いばっかかなーって」
    「敵だったらどうするんですか」
    「尚更だよ。そんな強そうなのが来たら、護衛間に合わない限りもう死ぬしかない
     じゃない?オレこんなだし」
    「簡単に殺されないでくださいよ。せめてもう一個くらいフェイクいれてもいいんじゃ
     ないですか?」
    「じゃあソレは次回の改善要望ってことで。いいじゃない、そろそろ出るんだから。
     来週頭には出れるかな」
    「だから、医者は退院まであと二週間はかかるっていってましたって」
    ここまで冗長な話し振りをみせる人があと二週間も安静が必要というのは、さすが
    にオーバーじゃないかと思ったのだが。
    チャクラ切れの状態に陥ったことがないので想像もつかない世界だ。

    そうだよ、普通の人だったらきれないように気をつけるんだよ。
    たしかにこの人が無茶しないと切り抜けられない場面も多かっただろう。
    でもチャクラ切れて体も動かせないって、手足捥がれたも同然の状態で、自分たちの
    ような者にとっては致命傷だ。特にカカシは里の名前を売るために名札つけた状態で
    表の任務につくことも多い。
    忍者として目立つ場所に出されるということは、その分敵対する相手からも注目され
    やすいということだ。
    だからこうやって厳重にしまわれてる訳で。やっぱり警戒心が足りないのだと思う。

    「あー、それはアレだよ。オレがガキの時からずっとココでお世話になってるからさ。
     やっぱいつまで経っても子供のままに見えてるんじゃない?基礎体力が上がって
     るって説明しても通じないからねえ」
    「いや、あっちはデータで見てモノいうでしょ」
    「いやいやいや。婦長さんとか未だに去り際に頭なでてくもの。お水飲む?っていう
     顔、あれは母の目線だね。オレのこと、七つくらいに見えてるとみた」
    「巨大な七歳だなあ。まあそれくらい減らず口叩ければ十分動けそうですね」
    「そうなんだよ。ソレいってあげてくれない?はたけさんは十分に元気でしたよって」
    「タキビさんでしょ」
    書類の上では、と指摘すると、カカシはいかにも面倒そうにため息をついた。
    「今回の名前ちょっと気に入らないんだよねぇ」
    「そうなんですか?」
    「ガイみたいでしょ、ほむらタキビとかって」
    「・・・あー」
    あの酷く個性的な、と続けそうになったのをどうにか堪えた。本人がどのように異彩
    を放とうとも、自分にとっては目上の存在だ。なにより先輩(は一見嫌がっているよう
    だが)とも仲がいい。気の置けない相手を当人が貶すのはともかく、第三者から指摘
    されると不思議と納得いかなくなるものだ。

    「まあいいじゃないですか。次寒そうな名前にしてもらったらどうです」
    「それより先に退院したい」
    「二週間後」
    「オレは来週退院したいの」
    ききわけのない子供のように顔を顰める。
    まだ起き上がるほどの元気はないようだが、表情は随分ゆたかだ。

    「・・・七歳に見えてきました」
    軽くいなしてみたが、カカシは右手を擦り寄るようにテンゾウのひざに寄せた。その
    まま指で撫でるように叩く。
    「ね、じゃあさ、おじちゃん退院させて?」
    冗談めかして顔を覗き込むようにずらしてくる。その表情に婀娜めいたものを感じる。
    そういえば自分も任務明けでまだ発散どころかっていう状態で、シャワー浴びただけ
    で来てしまったんだった。
    腰のあたりがきゅうっと疼くのを内心必死になって散らした。

    「七歳は色仕掛けしませんよ」
    「テンゾウがロリコンだったらイチコロだったのに〜」
    「ロリコンだったとしてもですよ?先輩の図体はでかいままじゃないですか、ときめき
     ようがありませんよ!」
    焦った分ごまかしが長くなったのを見逃してくれたのか気づかなかったのか。カカシは
    カラカラと笑っている。
    「当時のオレだったらイケてたかもよ?かわいかったらしいから」
    「なんで伝聞なんですか」
    「やぶにらみで生意気でかわいかったってよく言われたなあ」
    「褒め言葉にしては乱暴ですね・・・でもまあ、あとたったの二週間ですよ」
    「長いよ。来週」
    「こだわりますねえ」
    「・・・まあね」
    急に勢いをなくした表情を驚いてみてみると、少しだけ頬が赤い。

    こういうときは、じっと見つめる。
    下手なことをいって、時に雄弁な彼の言い訳を始めさせてはならない。
    話してる間に冷静になってしまって、本格的に誤魔化されてしまうからだ。そういう
    意味ではカカシが迷っているうちに黙ってプレッシャーをかけるのが一番効率がいい。
    その目やめてよ、といわれることもあるが有効な手札は使うに限る。
    そういえばこの技がカカシに対して有効なのは暗部ではテンゾウだけだ。先輩連中
    から『あのカカシからよく聞きだせたな』と持て囃されたこともある。
    目が怖いらしいですよと教えたら、そりゃお前にしかできねーと笑われた。
    失礼な話だ。
    思い出したら少しいらっとしたが、カカシが目の前で赤くなって視線を迷わせてるのを
    見ると溜飲が下がった。お手軽だ。
    叱られるか告白を迷うような子供っぽい仕草に、また微妙に腰がしびれるような感じ
    がする。この表情が見れるのはその技を持つテンゾウならではの特権だ。
    ていうかやばいな。待て。ようやく抑えたんだから。

    「・・・ケーキをさ、予約してて」
    ようやくぽつり、とカカシがつぶやいた。視線はまだテンゾウから逸らしたままだ。
    「は?」
    「だから、ケーキ。食べるやつ」
    「いえ、それはわかりますけど」
    ケーキ?ってなんで。
    しかも先輩甘いもの好きな方じゃないのになんで今ケーキの話に。

    「クリスマスじゃない。来週」
    「・・・そうですね」
    そうとしか返せない。この先輩の躊躇とクリスマスにどんな因果関係があるんだろう。

    クリスマスなら当然知っている。異国の宗教に纏わるお祭りごとのようなものだ。
    火の国発祥の文化ではないが、この国は温暖な土地柄、安定した季節の移り変わり
    と豊富な水量、肥沃な土地を多く所有しもともと国そのものが安定して栄えている。
    その為、外部との流通もさかんで、異文化を生活に取り入れることにも長けていた。
    木の葉が隠れ里といえど火の国の中に存在し、また忍でない者も数多く生活する
    以上、その流行が里にやってくるのも自然の流れだった。

    クリスマスはテンゾウが幼い頃、流行りだした異国の文化だ。
    よその国の偉大な神が生まれた日。それを祝って、というか祝いの部分は正直な
    ところ、あまり重要視されていないが、この記念日に大事な人と共にすごしたり、
    互いにプレゼントを贈り合ったりする華やかで暖かそうなイベントは、人々に非常に
    好まれた。

    里にもクリスマスを祝う雰囲気はそれなりにあって、まずアカデミーの入り口は赤と
    緑で飾られているし、この間覗いたら受付所ですらもみの木が置いてあった。
    そんなミーハーな里でいいのかと思わんでもないが、一般人にもこの行事は浸透
    しているから、おおむね好評なようだ。
    自分だったら、もみの木の横でニコニコしている忍者に「悪いヤツを消してください」と
    お願いするのはちょっとつらい。
    依頼現場を見たこともないが、なんとなくそう思う。

    一瞬でそこまで考えて、想定範囲を超えた告白に驚きを隠せないもののじっと続き
    を待つ。カカシは一度漏らしたら腹が決まったのか、その続きを語りだした。

    「クリスマスとかさ、あんま考えたことなかったんだけど。今回任務に出る前にさ歩いて
     たら、ほら飾りつけとかいっぱいあるじゃない」
    たしかに、商店街は受付所よりも派手な取り組みようだ。儲け時を逃したくない商人の
    貪欲さとサービス精神が両方にじみ出ている。
    「オレが子供の頃にそういえばいきなり流行りだしたなと思ってさ。そういうことあんまり
     したことなかったなと思って。彼女いないやつらで飲むくらいじゃない?」
    去年、テンゾウが初めて暗部に入った頃は、たしかにこの時期に飲み会があったような
    気がする。当然、非番の人間だけが参加していた。

    「オレが子供の頃、一回だけケーキ買ってもらったなあって思い出しちゃって。ウチの
     先生が新しモノ好きで、仲間でつつきあうのが礼儀とか無茶いってさ。そんでその時
     はイヤイヤ食べたんだけど。ていうか今の今まで忘れてたんだけどね、そんな記憶」
    思い出したら急に、アレ美味しかったような気がするってすごい思えてきて。

    カカシはそこで一度、チラリとテンゾウを見やった。
    「・・・それで、予約したんですか」
    「・・・・・・そう。」
    「買ってきますよ?」
    「うーん、違うんだよ・・・なんていうんだろ。買ってきてもらって食べたかったんじゃないん
     だ。食べたいだけなら無理やりその場で別のお買い上げしてもよかったんだし。でもそう
     じゃなくて・・・オレが自分で買って、お土産にしたかったんだよ」
    「誰にですか?」

    素直な疑問をこぼすと、カカシはむずがるように額をテンゾウの膝にぶつける。
    「・・・来週、帰ってくるっていってたじゃない」
    酷く熱烈な告白を受けた気分になって、テンゾウの頬はカカシ以上に朱く染まる。
    ボクが届けますよと続けなくてよかった、と頭のどこかで冷静に思った。
    その、と言いあぐねていると、顔を伏せて気が楽になったらしいカカシがゆっくりと言葉を
    続けた。
    「最近さ、昔の仲間のことたまに思い出すんだけど。いや、いつも忘れてるわけじゃない
     んだけど、どっちかっていうといつもああすればよかった、こういっておけばよかった、
     とか後悔ばかりなんだよ普通は。もういない人たちだからさ」
    「はい」
    「・・・でも、最近さ。更にその昔のことを思い出すわけ。悪かったなあ、とかじゃなくて、
     あの時あいつの態度にむかついたとか、下忍の頃のお使い任務で貰った野菜が美味
     しかったとか、うれしかったとかそういうの。そんだけのこと思い出すんだ」

    左手で、普段よりすこしだけしっとりしている白銀を撫でた。
    そして思い出す。カカシ本人が語らない彼の経歴。木の葉で伝説になったレコードの数々。

    自分が幼い頃、クリスマスはこの国に入ってきた。
    おそらく少し遅れて木の葉にも流行はいきついだことだろう。
    そしてその頃、この人は既に忍だったのだ。
    もうおぼろげにしか思い出せない、小さい頃の、幸せな記憶。暖かい家の中でテレビの
    ヒーローの活躍を心待ちにしていた幸せな子供の記憶だ。
    そしてその頃。
    この人は命を懸けて戦いの場に身をおいていたのだ。

    「昔、無駄だって思ってたことって案外いいもんなんだなあって改めて思っちゃって。
     そしたらなんていうか、オレもケーキおごってあげなきゃみたいな感じに盛り上がった
     っていうか」
    「ボクにですか?」
    「そう。餌付けしてみたかった」
    落ち着いてきたのだろう、カカシの言葉に冗談が混ざり始める。

    ふと、不思議な気持ちになった。
    去年はまだ名前しか知らなかった人だ。
    畏怖の対象でもあった。
    一緒に行動を共にするようになると、平時のいいかげんさと迅速な仕事ぶりのあまりの
    落差についていけなかった。さんざん振り回されたのに、それが今では恋人が交わす
    ような約束事を囁きあってる。冗談みたいな話だった。
    そしてそれを心安く感じていて、外面は変わらぬ表情とはいえ、もし尻尾があるとしたら
    はちきれんばかりに振っているのは自分だ。

    「じゃあボク今年は先輩と一緒に過ごせるんですかね?」
    「来週退院できるならね」
    「飲み会断らなきゃ」
    「行ってもいいけどケーキ入れる場所を胃の中に残しといてくれればそれで」
    「そんな具体的なお願い初めて聞きました」

    笑いながら耳の後ろを撫でる。キスしたいな、と思ってそのまま顔を近づけたら思わぬ
    速さで押しのけられた。

    「・・・けっこう早く動くじゃないですか・・・」
    「ちょっとぉ!やめてくれる?今オマエ顔近づけようとしたでしょ!!」
    「そうですけど」
    「やめてよねデリカシーのない!」
    「は?」
    「オレは入院中なの!髪洗うのなんて週に二回くらいなの!汗臭いんだよ!」
    「え、でもそんな匂いませんよ」
    「シャワー後のにおいしかしないやつに嗅がせたくないよ!」
    「前、風呂も入らずやっちゃったことあるじゃないですか」
    「バカ!それはお互い汚かったからだよ!」
    今度は興奮して赤くなってるカカシの顔をぼんやりみつめる。

    「バカって久しぶりに言われました・・・」
    「ほんっとデリカシーないよね・・・!」
    ああもうびっくりした、とまだ憤慨している。

    なんなんだこの落差。
    甘えたと思ったらしんみりして、戻りかけたら逆ギレだよ。


    テンゾウはおもむろに立ち上がると、上着を羽織った。
    「あ」
    「あ?」
    「いや、早いお帰りで、と思ってさ」
    「仕事できましたんで。また来ます」
    「出るときはオレの右側の壁から出てって。出たら、見張りがテンゾウのチャクラを
     シャットアウトして面会終わりって感じだから」
    「偽ほむらさん?ここから出るだけで入れないというわけですが」
    「そうそう。アウトだけなの、この横の結界。あの人いい結界作るよ。クセがあって
     面白いから一度話してみるといい」
    「じゃあぜひ次の機会に」

    立った位置からカカシを見下ろすと、より見上げられてる感じがしてこそばゆい。
    ときどきほんとに子供のような顔をするなあと思いながら、さっきあわてて手放したせい
    で、かき乱してしまった髪の毛を撫で付けた。

    「医師と上部に進言しておきます。退院は来週希望でしたね」
    「うん」
    「もし伸びてもまた来ますから。週末はシャワー浴びといてくださいね」
    「・・・ばっかじゃないの!!」

    罵声を背に受けながら壁に向かう。
    抜ける直前、次はオレがいくから、と確かに聞いた。



    気づくと、1Fのトイレにいた。後ろを確認すると『故障中』となっている。
    人がいるときは困るなあと思ったが外に出たら入り口の前に水が流れません中央ロビー
    のトイレをご利用ください、とあった。業務用らしく廊下も人気がない。
    偽ほむらさんはトイレが好きな方なんだろうか。確かにクセはありそうだけど、と出口へ
    向かう。通路の先から聞こえるアレはロビーの喧騒だろう。

    階上へと向かう階段の下からロビーに抜ける。そういえばココにもクリスマスの飾りは
    してあった。来たときは、単にここのツリーはでかいなと認識しただけで何の感動も
    なかったモノが奇妙にいとおしく思えるから不思議だ。

    ほんとうに不思議だ。

    あの人が少し照れくさそうに過去を語るのを聞くのが好きだ。
    誰にでも伝えることじゃないとわかってるから余計に。
    「クリスマスって柄じゃないんだけどなあ」
    感動しにくいタチだと思ってたのに、あんな言葉ひとつで喜んでる自分が滑稽だった。
    いつからそうなったんだろう。
    その瞬間くらい覚えていてもいいだろうに、いつからこんな調子のいい人間になれたの
    か、考えても思いつかない。

    会計を待つ人間が多いのか、ロビーは来たときよりもむしろ混んでいるようにみえた。
    大きなツリーを見上げながら出口へと人を避けながら歩くと、最初に声をかけた看護婦
    とかち合った。むこうもすぐに気づいたのか、声をかけてくる。
    「ほむらさんにはお会いできましたか?」
    彼女はほむらという人物が入院していると思ってる、いわゆる一次ゲートの人間だ。
    「ええ、おかげさまで。思ったより元気そうで安心しました」
    「でしょうね。いらしたときより明るい表情でらしたから」
    それではと笑顔で別れながら、一般人にまで表情を読まれたことについては、ちょっと
    だけ恥じた。

    自動で開閉するドアを抜けると雪が降っていた。
    まだにやついてる表情を引き締めながら歩く。



    結界を抜ける直前に、背中で拾った声はなんとなく宝物になった。














すいません。
テンゾウが情けなくてはたけがアホの子(乙女属性)になった
ことをお詫びいたします。
あと捏造はいつものこととしても偽名のセンスのなさに我ながら
感動しています。探さないでくださいorz