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 0101
    ※後日談というよりカカシ日記ですよ。(なにその注意書き)


    迎えにはいけません、と言われていた。

    コドモじゃあるまいし、そんなこと頼んでないのに心配性なんだからさ。
    ホントはウチにお招きするつもりだったんだけど、半月程度とはいえ自宅にはもどって
    いないわけだし。片付けもあるでしょうからウチでどうですか、と。
    口布と着替えを持ってきてくれたテンゾウはそういった。
    追い出すようにして見送った、あの時の言葉をこぼれないようにすくって。
    そして約束の形にして渡してくれたのだ。

    テンゾウのそういう丁寧さを好きだ。とかく言葉をぼかしたがる自分と違い、ひとこと
    一言わかりやすく伝えてくれるのがいい。
    喉のあたりがむずがゆくて、ごまかすように『昼過ぎにいくから』と早口で伝えた。
    早口になるあたり、ちょっとかっこ悪かったなあと思う。

    病院を出ると、雪が降っていた。うす曇の空から、ちらほら落ちるそれを喜ぶこどもの
    ように軽い足取りで踊るように進む。受け取りが一日遅れてしまったことについては
    昨日侘びを入れてもらったので、このままケーキ屋に顔を出しても笑顔で出迎えて
    もらえるはずだ。そしてケーキを持ち帰る。
    クリスマスらしくて、でも甘さは抑えめで小ぶりなケーキを。

    そしてたどり着いたテンゾウの部屋のドアに手をかけて。
    鍵がかかっていることに驚愕するわけだ。


    「──なんでよ!?」





    ■退院後のはなし、鍋の日。







    「・・・すいませんでした・・・」

    目の前にはほとほと困りきった顔(多分)のテンゾウが、さっきからこちらにつむじを
    見せたまま固まっている。
    「ほんっと、すいませんでした。気遣いが足りませんでした」

    衝撃のドア開かないんですけど事件(今名づけた)の日から既に一週間。
    除夜の鐘も終わりかけの真夜中に、テンゾウはものすごい勢いでオレの部屋へと訪れた。
    いや、いいんだよ。ほんといいんだよ。いいんだけどさぁ!
    「・・・もういいよ。仕事だったんだ、しょうがないでしょ」って言ってあげたいのはやまやま
    なんだけど。喉につっかえてなかなか出ないので、黙ったままのオレなのであった。
    あー心狭い。

    言い訳を許したわけじゃないから、テンゾウは頭を下げたまま。
    つむじとの対面にも飽きてきたころ、乱暴に息を吐きながら立ち上がり、茶を入れようと
    台所へ向かう。振り返ってみても未だ姿勢は変わらず。
    待てをされた犬のようなその姿に、弱いとこを突かれてほだされそうになる。

    いや、ほんと別にいいんだよ?いいんだけどさあ!!!!!

    くそ、テンゾウわかってやってない?

    自分の分の茶を入れ、ついでに客の分もと、湯飲みに半分だけ注ぎいれたソレを、
    テンゾウの頭のわずか手前、テーブルの隅ギリギリに、だん、という音を立てながら
    叩きつけるように置いたが、中身が少ないせいか零れはしなかった。
    このいやがらせ、安心設計だなあ。

    「あたま、上げなよ」
    「・・・すいませんでした」
    「もういいから上げなって・・・仕事だったんでしょ。ソレはわかってるから」
    「はい」
    ようやく見えた表情は、やっぱり主人にしかられた犬そのものの風情で。
    「でもね、テンゾウ。書置きするなら外に残しておいてくれないとわかんないから」
    「・・・・・・・・・・・・はい」

    問題のその日。
    緊急の任務で飛び足したテンゾウからの伝言は、なぜか玄関から真逆の方角に。
    つまり、テンゾウの部屋の窓の外に向かって告知されていたのだ。
    仕事なんだろうけど、としょんぼりテンゾウの部屋の明かりを翌日確認にいくまで
    頭ん中はもーぐるぐるし通しでしたよ。拒否なのかな、いやだったかな仕事かなって
    そりゃもう色々と!!!!

    「・・・まあさ、オレもソレみた瞬間、反省はしたのよ」
    「え?」
    「たしかに窓から出入りしてましたよ。玄関から入ったことなんてほとんどないし」
    「そうですね・・・」
    「けどさ、退院したばっかの帰り道に、お土産もって人様の家による時まで窓から
     土足で出入りするわけないじゃない!」
    「すいません、ほんと・・・」
    「オマエの中でオレがどんなイメージなのかよーーっくわかりましたよ」
    「その通りなんですけど、ほんとすいません」
    否定しないあたりちょっと引っかかるけど、まあ日常が日常だったからよしとしよう。
    「窓の落書き消えた?」
    「あ、まだ消してません。窓みて慌ててこっちきたんで」
    「早く消しなよ・・・書いといてなんだけど」
    「そうですね。帰ったら」
    テンゾウの部屋の窓に張られていた『留守にします、すいません。数日中に戻り
    ます』のメモに被せるように、ガラスに『何故コレを玄関に貼れない』って書いて
    残したのはオレの八つ当たりの成せるわざだ。

    「とりあえず」
    「はい」
    「ごくろうさまでした。無事でなにより」
    「・・・・・・はい!」
    そして今度はようやく褒められた犬のカオ。
    少ない茶を早速飲み干したらしいテンゾウを、撫でたくなる衝動を抑えてようやく
    微笑んだ。
    「まあ、クリスマスは間に合わなかったけどさ。おなかすいてない?ご飯食べて
     いきなよ」
    「いいんですか」
    「うん。いっぱい材料買い込んでるから、食べてきな」


    視線を台所へと示すカカシに、好奇心に負けたテンゾウが立ち上がって、冷蔵庫
    の横のストッカーに積み上げたモノに感嘆の声を上げる。

    「ほんとだ、すごい量」
    「でしょ。ていうかさ、年末に更に長い休暇貰うのオレ初めてなんだよね・・・多分・・・」
    「あ、そうなんですか?」
    「うん。で、あーやっぱ年末は混んでるのネーと思って店歩いて回ったら、明日から
     ほとんどの店が休みだって貼ってるじゃない。蕎麦屋くらいかな、開いてるの。お店
     の人にも、ギリギリに来ると安く買えるかもしれないけど、必要なものナイかもよって
     いわれて慌てて買っちゃった。おかげで買いすぎた。コレも平和ボケなのかね」

    コレが任務ならば、日程や距離やランクを元に、必要最低限のモノを選ぶことができる
    のに。いつもどおり適当に済ませればよかった、とぼやくカカシの足元には、たしかに
    葉モノ根菜を問わず野菜が山と置いてある。
    家族持ちならともかく、特に大食いなわけでもないカカシの食事量を考えると、一週間
    はゆうに食いつなげそうだった。

    その前に傷むかもしれないが。

    「毎年、三が日すぎてからこっそり帰ってきてなんとなく新年のご挨拶って流れだった
     からね。オマエ、年末年始がこんなバタバタしてるって知ってた?」
    「知ってはいましたけど。でもボクもありものを適当にやるくらいなんで・・・余裕がある
     ときはお節いただくくらいですかね。下の階のご夫婦が小料理屋やってまして。注文
     受けてくれるんですよ。ちっさいのを」
    「えー便利ー。ていうかなにそれいい暮らしじゃない」
    「今回はお願いが間に合わなかったから、モチを焼いたり煮たり?するくらいですかね。
     それくらいならできますから・・・って先輩も似たり寄ったりでしょ?サラダ以外の料理
     できるんですか?仕入れすぎですよコレ」
    「ふ。オレね、料理習ったんだ」
    「え!」
    「マジで。そうじゃなきゃ材料買いこむわけないじゃん」
    元々テンゾウが帰ってきたら誘おうと思ってたから・・・とは言わなかった。
    仲直り(?)したばかりで、いずればれるとしてもそこまでチョーシに乗せなくてもいい
    と思ったのだ。


    切り分けるのだけは得意な二人がそろって大量に野菜をカットすると、あっという間に
    鍋の準備ができる。
    「オレ水炊きとか好きなんだけど、作り方聞いたらものすごい簡単だったよ」
    「へえ?出汁とかもうそこから想像つかないですけど」
    「水入れて、昆布入れて火にかけて、沸いてきたらトリ入れて、他の具入れて煮え
     るの待つだけ」
    「そんだけなんですか?」
    「昆布そのまま煮ていい?クタクタのやつ好きなのよ」
    「かまいませんけど。他に味付けは?」
    「あとは弱火にしてー火が通るまで待って、最後はポン酢に助けてもらっていただ
     きます、だよ」
    「へぇ、簡単だ。じゃあアレって昆布と具の味なんですか。出汁。」
    「ね。オレも煮るだけって知らなかったよ。案外簡単でいいかも、料理」
    「連休だってわかってないと辛いですけどね」
    「ああ、買い物?」
    「そうです。腐らせちゃうし」
    「そういう意味だとたしかに。不経済というよりは・・・疲れて帰ってきて腐った野菜と
     対面するのへこむしね・・・」
    「それがあるから普段はちょっと」
    「ね。ま、たまには。連休ですし」
    「珍しくお休みですし、ね。先輩は何時から復帰なんです?」
    「三が日明けて、病院にデータ出したらすぐにでも」
    「働き者ですね」
    「いっぱい休んだから。身体、鈍らせたくないし。そういうオマエはどうなのよ?」
    「ボクは年末奉公しましたからね。なにか緊急で問題がおきない限りはやっぱり
     三が日明けですか。次あたりまた組めるかもしれませんね」
    「へぇ、久しぶり」
    「誰かさんがよく離脱なさるから」
    「使い勝手のよさがばれて、いまや引く手数多の誰かのせいじゃないの?」
    「そんなに人気出てるなら、査定に反映して欲しいくらいですよ」
    「事務方にアピールしなよ。返事はハキハキと、書類は正確に期日までに提出す
     る!笑顔は絶やさない。それだけでイメージ違うよ〜」
    「それは普通のマナーじゃないですかね」
    「でもオレはできな〜い〜。から事務方には人気ないのヨ〜。査定もあんまよく
     ないよ〜」
    「先輩くらい個人任務受けてれば関係ないでしょ」
    「きつい思いしてる分をささやかにいただいてるってだけの話だよ〜…って、なんだ
     かね、年始早々さもしい話題してるなあ。でも事務方にいい印象持ってもらうのは
     いいことだと思うよ。結局は人間がやることだ。話しやすい相手を作っとくだけでも
     随分ちがうよ。ま、お給料上がったらご馳走してよ。レクチャー代で」
    「いいですよ。あ、煮えたかな」

    鍋の蓋を素手で取ると、たくさんの湯気の下に、具材に被せるように乗せた白菜と、
    薄く切っておいた大根がしんなりと半透明になっているのが見える。食べごろだ。
    カカシがいただきます、と言うと、既に鍋の中身に手をつけていたテンゾウが箸を
    持ったまま、慌てて追随する。

    テンゾウは微妙に気まずいような恥ずかしそうな表情を浮かべながら食べ始めた。
    ソレを見てると、ああいい子だなあ、となんとなく思う。
    しまったとか考えてるんだろうな。
    よっぽどおなかすいてたんだろう。帰ってきたばっかりだし。
    普段冷静なテンゾウが、カカシの前で複雑な表情を見せるようになってから、随分
    たつのだけど。
    外面は変えないまま、内心慈愛に満ちたコメントをオレがこっそりうっとり考えてる
    ことは秘密だ。テンゾウはオレに子供扱いされるのがあんまり好きじゃないから。

    自分の子供の頃を振り返っても、当時から一端の忍者気取りな気持ちはどこかに
    あったと思うし、その自負の強さを思い出すたび、微妙な気持ちになるのは事実だ。
    ガキはガキなりに自分がどう足掻いてもまだ子供だってことはわかってて、だから、
    自分に余裕があるように見せたがるんだ。

    普段のテンゾウはそういう若さ(だと思う)ゆえのシロモノとうまく折り合いつけて、
    自然に冷静だったりイヤミだったりやさしかったりしてるように思えるから。
    そういうのが隠せなかったとか、出ちゃった部分をみつけると、テンゾウの焦りとは
    裏腹にオレはうれしいという、相反する状態になるわけです。

    だまったままニヤニヤ考えてると、流石にテンゾウが妙なカオをし始めた。

    「先輩、なんかへんですよ?」
    「あ、そう?美味しいからつい…大根うまいね。ちょっと固いままのもあるけど、それ
     はそれで美味しいなー」

    う。
    食べながら無理に喋ると口の中の熱が留まるのがたまらない。熱い。

    「鳥も美味しいですよ」
    「手羽元、四個食べていいよ」
    「不吉な」
    「語呂合わせですー!年始ってそういうのやるんじゃないの?」
    「そんな語呂合わせあったかなあ…?」
    なかったっけ?数の子が子孫繁栄でしょ。まあ鍋には数の子ないけど。
    うーんソレくらいしか覚えてない。
    テンゾウは幸せの語呂合わせにまだ納得いかないようだったけど(まあ思いつきで
    言っただけなので、納得してくれなくてもいいんだけど)、ガツガツ元気良く平らげて
    いく。ほんとおなかすいてたんだね・・・。

    「鍋にしたら、結構すぐなくなるかもしれませんね」
    「ああ、野菜?そだね。毎日水炊きでもいいかな、オレ」
    「え、他の鍋にしましょうよ」
    「だって他の鍋は味付けとか色々ありそうじゃない。詳しいことは知らないもん」
    料理習ったとえらそうにしたものの、実際はよっぱらったついでの与太話が元だ。
    「薄めの味噌汁だと思って作ったらどうです?味噌汁ならボク作れますよ」
    「どうせ即席でしょ〜」
    「違います、即席の出汁と味噌ですよ!」
    「えー」
    似たようなもんじゃないの、と眉を顰めてる。が。・・・みそ味。味噌味かあ。具沢山
    の味噌汁みたいなもんかな?じゃあ次はゴハンたいとかないと。
    ていうかつまりそれってば、アレですか。

    「また呼んでください。なんだったらボクが作りますから」

    こんなとき、ほとほと感心する。
    勇気あるんだよねガキのくせして。
    なんとなく言葉にはっきりできないままの、希望が混じったソレをきちんと約束の形に
    してくれるのは毎回テンゾウなのだ。

    「・・・・・・」
    「先輩?」

    「あ、ごめん。噛んでたから。・・・味噌味の鍋、楽しみにしとく」
    「ボクも誰かにコツあるか聞いときますよ」

    うん、とため息だけで答えて、そのまま二人で沈黙を味わう。
    うれしいんだか、気恥ずかしいんだかじれったいんだか、よくわかんない表情を隠す
    ように鍋をみると、もう残りが少なくなっていた。
    「テンゾウ、やっぱおなかすいてた?」
    「あ、すいません食べ過ぎですね、ボク」
    「ううん、オレも食べてるし。まだ入る?コメ入れちゃおうか」
    「食べたいです。じゃ大きな具もらっちゃいますね」

    テンゾウが鍋をさらってる間に、と冷凍庫の中から小分けにしておいたご飯を取り出し、
    汁物と野菜くずだけになった鍋の中に、かたまりのまま投入する。

    「あ」
    「あ?」
    「先輩、それはやりすぎなんじゃ」
    「え?なんで?」
    「鍋。なんか冷めちゃったよーな・・・」
    え、外側とかはぐつぐついってるじゃない?と見つめると、いまごろ冷凍の米の冷たさが
    伝わったものか、中心から表面が凪いでいく。
    「・・・そうか。冷凍の米は冷たすぎか・・・」
    「せめて解凍して冷や飯くらいにしないといけなかったんじゃないですかね」
    「・・・・・・ここまでは順調だったのにー」
    「まあ、普段調理しない人間のやることですし・・・どれくらいかかるんでしょうね?」
    「うーん、とりあえず弱火で長く煮る」
    相談しながら、ちょっとだけ水を足して蓋をする。

    「食休みできちゃったね」
    「ですね」
    「なんかつまむものあればいいんだけど。酒もちっと飲む?」
    「先輩」
    「ん?」
    「すいませんでした」
    「・・・いきなり」
    なにをいいだすんだか。

    「一緒にケーキ食べるの楽しみにしてたんですけど。今度はボクにご馳走させてください」
    「いいよ、そんなの。仕方ないっていったでしょ」
    「でも、せっかく先輩が買ってきてくれたのに。餌付けされそこねましたから」
    「うれしそうに餌付けとかいわないの。バカだねもう」
    「そうですか?ボクはされてみたかったですよ」

    「・・・飼い犬になりたいみたいな言い方しないでよ」
    飼い犬か。
    いいなあ。呼んだらすぐ来る犬。オレに忠誠を誓って何でも言うこと聞いてくれて、オレが
    面倒見てあげないと困る犬。
    素敵なんじゃないのと思うのに、しっくり来ない。

    だって、オレのいうこと聞くだけの人間なんて別に要らないよ。
    ケーキだってそうだ。
    ケーキを食べさせたかったわけじゃない。
    ただ、一緒になにか、時間を分け合うようななにかをしたかっただけなんだ。

    いまさら、気持ちがすとんと落ちてきた。
    自分は恥ずかしいからって言葉にできないまま、テンゾウにばかり甘えて、もっと大事な
    ところで繋がっていたいからと形を欲しがっていただけだ。
    一緒にいてよ、って見つめるだけのくせして、そんなことばかり欲しがってる。
    思い出作ったところでなんだっていうんだ。
    いつか思い出して欲しいわけじゃないのに、ばかじゃないのオレ。

    「先輩?」
    「・・・犬、とかさ。なんなくていいから」
    「・・・・・・なれないですけどね」
    「なっちゃったら、命令しなきゃいけないじゃない」
    「・・・してくれないんですか?」
    「するわけないでしょ」
    しまった、今の声はちょっと甘えたみたいな感じだ。
    「鍋、火消していいですか?」
    「?食べないの」
    「後で食べますから」
    テンゾウが立ち上がって、すばやく火を消す。頬を高潮させたまま前にオレの前に座り込む段に
    なって、ようやく、うわ、くるかもと思った。遅いよ。なにこの反応速度。
    「食欲満たしたからってすぐさかんないでよ・・・」
    「しょうがないでしょ、なんかもうアナタそんな顔するし」
    「どんな顔だよ!普通だよ!」
    「だったらもっと飄々としてくださいよ!なんか、もじもじするしにこにこするし、落ちつかないったら」
    「落ち着かせるのが男ってもんでしょ!」
    「でもいま我慢しなくてもいい環境じゃないですか」
    たしかにねえ。
    周囲に敵の目が光ってるわけでもないし、焦燥感に駆られて勢いだけでやろうとしてるわけでも
    ないし。最近そーいうことから遠ざかってたのもあるし、更にいうなら、翌々日まではおそらく休み。
    なるほど理想的ではある。

    前のめりのテンゾウの額に、ごつん、と強めに頭をぶつけた。
    「そういうとこガキっぽいっていうんだよ、オマエ」
    「どう思われようとかまいません。ボク、実を取るタイプなんでむしろ上等です」
    「それ実なの?」
    一転、冷静なようでもがっつきだすテンゾウがおかしくて、小さく肩を揺らすと呼気が唇をなぞる。

    へんだなあ。オレたちはちょっとへんかもしれないよ。
    任務以外で、テンゾウと会っていいのかな、当然みたいに一緒にいてもいいのかなって言葉に
    出すのはすごく怖いような気がするくせに。
    キスしたり寝たりするのはすごく楽なんだ。やりたいんだなってわかるから。
    特別言い訳いらないもんね。
    でも、やりたいのに理由はいらないけど、一緒にいるのには理由がいるような気がする。
    多分、自分はきっとテンゾウと特別な何かになりたいんだけど、なにかいろんなことすっとばし
    てコトに及んじゃってるから今頃困るんだ。
    だいたいコクハクっていつするのよ。ていうか言った方がいいのよくないの?
    いまさらそーいうこといったら、冷めちゃったりしない?

    唇を合わせたまま体をまさぐられるもんだから、服がひっぱられるしで、息がちょっと。
    口の中で暴れるテンゾウの舌の根元を少し強めに噛んで、引かせた。
    「・・・イタイんですけど」
    「・・・っ、がっつき、すぎでしょ・・・」
    落ち着け、もう。
    ていうかオレも落ち着け。
    お互い息が苦しくて、二人して顔真っ赤にしてさ。テンゾウなんてものすごいえろい目してて、
    しかもさっき舌噛んだせいでなみだ目なもんだから、それをみてまたドカンと下にキた。
    離れた距離を、襲い掛かるようにして自分から埋めて、テンゾウを押し倒す。歯がちょっと
    ぶつかったけど気にしない。痛いけど。

    たくさん、色々考えてることも、いいたいことも、いいたくないことも、聞きたいこともそうじゃ
    ないこともいっぱい抱えたまま。
    結局やるだけに終わってしまうのはオレのいけないとこだよなあ、とぼんやり考えながら、
    行為に没頭していった。








    結局、鍋に残った雑炊もどきは、翌日の朝食になった。

    「ぐずぐずだね、コメ。これはこれで美味しいけどさ・・・」
    タマゴ割って、ちょっとしょうゆいれて完成した雑炊(だったもの)は、味は悪くなかった。
    けど、やっぱお米は想像以上に煮崩れていた。
    テンゾウが用意してくれた、朝一番の風呂にゆったり浸かって、タオルを頭にひっかけ
    たまま、暖められた雑炊をすする。
    「髪の毛先に乾かしたらどうです?」
    「だめ。死にそうおなかすいてて。」
    「風邪引きますよ」
    「風邪だって生きてないとひけないんだからね?」
    「はいはい」

    昨日の色気のかけらも残ってないテンゾウはおたまを持って配膳中。
    それが完成する前からひっさらって食べ散らかしてるのがオレだ。
    もくもく食べてると、テンゾウが後ろにまわってゆっくりとタオルごと頭をもみ始めた。
    「サービスいいね」
    「ちょっと強引だったって自覚があるだけです。お気になさらず」
    たしかにちょっといつもよりしつこかったかもしれないけど。幸いこっちは体力万全でした
    から。余裕とまではいかないけど、案外いいかんじですよ。ええ。

    「ああいうのはずるいです」
    「ん?」
    「みょーに可愛くみせるのはずるいです」
    「・・・・・・・・・オマエのその思い込みはなんだろうね・・・」
    「なんか、いろいろ考えてたでしょ」
    「う」
    「表情めまぐるしかったですよ。おかげで盛り上がっちゃうし」
    「いや、おまえのは多分溜めてただけだと思うよ」
    「いえいえ、アレは外部刺激によるものです。先輩がなんかいいたそうにこっちみてるんです
     もん。おもいっきり中断させちゃいましたけど・・・いいたいこと、あったんじゃないですか?」

    いいたいことならいっぱいあるよ。
    どっちかというと、聞きたいことのほうが多いような気がするけど。
    でも、どこからどこまでがいっていいことで、ここまではいわないほうがいいことなのか、
    よくわからないので、いえないままなだけですよ。

    つくづくオレがガキですよ。

    「あったけど、忘れた」
    「えー。すっごい言いたそうだったのに」
    「ボケ始まってるかなぁ」
    「ひどい。老人になるの早すぎます」
    「否定してよ」

    いますぐ、伝えられれば一番いいんだろうけど。甘やかしてもらえる期間にあぐらかいて、
    もうちょっとだけ待ってもらう。心を外に出す練習はします。するから。

    「あのね」
    「はい?」
    「またおいでよ。」
    おまえはお前の意思でここにくるといい。
    そしたらソレに勇気もらって、オレはなにか、言葉で返すよ。

    「来ますよ。とりあえず、つぎは味噌味の鍋ですし」

    それまでは約束係はテンゾウです。
    おまえががっついてくれるなら、体でもなんでも使って引き止めておくから。
    そーいうことには躊躇しないのよ。
    それがまさしくオレです。

    当然のように答えてくれたテンゾウに、にっこり笑って。
    頭の上にある顔を引き寄せた。








散文にもほどがある。
普段よりもっとわけのわからぬ飛び具合。先輩ぐるぐる中です。
とりあえず血の巡りはちょっと悪そうなカカシですいません。
あと、更に翌日くらいになってようやく「あれ?あけましておめでとう」
とか素になるといい。ボケ二人。




■ちなみにケーキは■

「実は、まだあるんだよ」
「・・・・・・」
「ケーキ。全部食べられなかったから」
「そうなんですか?じゃあボクそれいただきますよ」
「でもさ、テンゾウ」
「はい」
「ケーキだよ」
「・・・はい?」
「もう何日たってると思ってるの。まあ多分腐ってはいないけど・・・」
「・・・・・・一体なにを・・・」
「あのね、凍らせたの」
「はぁ。」
「でも、勢いで凍らせたはいいけど、多分アレ不味いんじゃないかなあ・・・」
「たしかに凍ったケーキって食べたことないですけど・・・」
「解凍させる?」
「解凍・・・・・・でも・・・いや、試してみます。アイスの甘みはむしろボク好きなほうです
 から、冷たい方が美味しいような気がします」
「そうかなあ」
「ええ!いただきますよ!」
「元気だねえ」
「だって、いただけるんでしょ?先輩のお裾分け。餌付けですよ餌付け」
「繰り返さないでよ!」
「もう食べちゃおうかなぁ」
「今から?雑炊二人前食べてまだいくの?ほんっと元気だねオマエ・・・若いよ。胃袋
 に若さ感じちゃうよ・・・!」
「先輩も一口いかがです?」
「いらない。疲れてるから余計な咀嚼とかしたくないー」
「ああ・・・」
「なにその半笑い。むかつくなあ」
「いえいえ。じゃあボクいただいてきますね!」


そしてテンゾウは元気良くベッドを飛び出し、冷凍庫のドアに手をかけた。
この頃から、テンゾウの格言に「ケーキにはケーキの領分がある」が追加されたという。








そんなかくげんはない。